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『紫紺のつばめ 髪結い伊三次捕物余話』 宇江佐真理 (文春文庫) - 2007年09月16日(日)


宇江佐 真理 / 文藝春秋(2002/01)
Amazonランキング:61714位
Amazonおすすめ度:
小粒の宝石
より急展開な内容で満足間違いなし!



<波乱万丈の展開に読者も釘付け>

宇江佐真理の描く時代小説は現代小説よりも身につまされる。

いろんな読み方が出来るのはそれだけ作品としての間口が広いのであろう。
作者の人となりというか視野の広さが読者にひしひしと伝わってくるのである。

伊三次とお文を理想のカップルと見るかどうかはさておいて、少なくとも男性読者が読めばお文をわがままだけど可愛い女性と捉え、逆に女性読者が読めば伊三次を単純だけどやさしい男性として捉えるであろう。

でも現代に生きる我々もストレス溜まりますが、作中の登場人物はもっと溜まってますね。
それだけ一所懸命に生きなければ過ごせなかったのでしょうね。
なんせ、クーラーも携帯電話のない時代ですものね。当たり前か(笑)

でも彼らの熱き心は現代人以上だと見習わざるをえないのである。

本作においてはやはり“すれ違い”がテーマとなっているのだろう。
特にお互いが強情な故に別れてしまった伊三次とお文。
これは読者もハラハラドキドキするものなのである。
まあ、あるきっかけで表題作にて伊勢屋忠兵衛の世話を受けることとなったお文も悪いのかもしれませんがね。
お金がない(というかこつこつやって生きている)伊三次にとってはショックでしょうね。

2編目から3編目まではより伊三次のイライラがヒートアップする展開が待ち受けている。
「ひで」では幼ななじみの日出吉の死に直面し、次の「菜の花の戦ぐ岸辺」では殺人の下手人扱いを受けるのである。
それも不破は何の庇いもないのである。
ここで悲しいかな、伊三次と不破との信頼関係が崩れる小者をやめてしまうのであるが、逆にお文との関係が修復しそうな方向性で終わるのですね。舟での2人のやりとりはとっても印象的かつ感動的です。

4編目の「鳥瞰図」は、まあ言ったら後に伊三次と不破との関係の修復を図るため、作者が不破の妻のいなみに一肌脱がせたと言って過言ではない感動の物語です。
伊三次がいなみの仇討ちを思いとどまらせるのです。

最後の「摩利支天横丁の月」は、お文ところの女中のおみつと1作目で強盗をやらかした弥八との恋模様が描かれている。弥八が改心し人間的にも成長して行く姿はとっても微笑ましく、おみつとの幸せを願わずにいられません。

いずれにしても、2作目まででこのシリーズの特徴は登場人物キャラクタライズがとてもきめ細かくされているということに気づくのである。
たとえば、ある人を造型的に取り上げるのでなく、いろんな過去のいきさつや生い立ちを巧みに交えてこの人はこういうところもあるんだということを読者に強く認識させてくれる点が、素晴らしいと感じたのである。
いわば、登場人物も作中で変化→成長していっていると言い切れそうなんですね。

それだけ作者が人間の感情のもつれや人情の機微を描くのに長けているという証なんでしょうね。
読者にとって面白くないはずはないと断言できそうな展開ですね。
個人的には伊三次とお文の啖呵を切ったセリフを読むだけで幸せな気分になるのである。
時に熱く、時に胸をなでおろし・・・

オススメ(9)




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