『エバーグリーン』 豊島ミホ (双葉社) - 2006年08月01日(火) <豊島ミホお得意の普通で地味な若者を熱く描いている青春小説の決定版。> 注目している若手作家豊島ミホさんの待望の書き下ろし新刊。 舞台は雪の降り積もる地方の街。 主人公は中学3年生のシンとアヤコ。 第1章では中学校卒業の日に10年後の再会の約束をするまでが描かれている。 第2章以降は、その後別々の道を歩み始めた2人が、10年後に再会する予定の日の2カ月前からの心の動きが描かれる。 帯に“切なさにキュッとなる恋愛小説”とあるが、私はこの作品は恋愛小説の要素は極めて薄いと思う。 なぜなら別に恋人だったとかじゃなく、好きだと言い合ったわけでもなくただ単に、お互いが気になる存在だったのだから。 どちらかといえば青春小説のジャンルに分類すべきだと思う。 2人がお互いに持ち続けた10年間の想い、は青春時代しか味わうことが出来ないのである。 逆に言えば、好きなのに好きだと言えないほどシャイで純真な登場人物が眩しく感じるぐらいである。 本作は他の作家の恋愛小説のように、人を好きになる気持ちの大切さに力点を置いて描いたものではない。 それよりも自分のやりたいことや夢に向かってどのように生きているか。 そう、豊島ミホは読者と共に人生を模索できる作家なのである。 読ませどころのひとつてして、物語の設定として10年後の約束の日の2カ月前現在、シンには恋人がいる点があげられよう。 あと、10年前の約束を果たして漫画家になったアヤコと、ミュージシャンにならずに地元で働いているシンとの対比。 その後、シンはギターを取り出して焦りだすところが共感できるんですよね。 男性読者の推測として、アヤコがシンに憧れている度合いの方がシンのアヤコに対するそれより強いような気がする。 永年恋人を作らなかったアヤコ。 これはたとえば、永年片想いを続けている女性読者が読まれたら大いに共感できるでしょう。 少し前述したことと矛盾するかもしれないが、読み手によっては立派な心に響く恋愛小説と言えるのかもしれませんね。 ラストの再会シーンはハラハラドキドキします。 これは他の本では味わえないと断言したいですね。 本作の爽快さは10年経ってもお互いがお互いを刺激して奮い立たせている心の底に根ざす純粋さに尽きるであろう。 この10年間はお互いがインスパイアし合っている感じが読者に伝わってくるのである。 逆に言えば、2人は見事に大人への旅立ちを果たしたと言えよう。 そういう意味合いにおいては、何か大切なものに訣別したのかもしれませんね。 2人は訣別することによって成長を遂げたのである。 成長を遂げたから、たとえ離れ離れになっても、これからの10年間はお互いがリスペクトしあえる関係でいられるのであろう。 少し豊島さんの作品における位置づけについて考察したい。 あくまでも個人的な意見であるが、総合的な完成度においては代表作と言われている『檸檬のころ』よりは落ちるような気もする。 でも本作は豊島作品のコンプリートを目指しているファンの方には最も印象的な1冊となったはずである。 主人公のアヤコは24才。豊島さんも現在24才。 漫画家と作家との違いはあれ豊島さんの“私小説”のように感じられたファンも多いはずだ。 本を閉じて、お互いに勇気を与え合って生きている2人に羨望の眼差しを送っている私がいた。 それとともに、本作であるひとつの集大成的な姿をファンの前に披露した豊島さんに感謝の言葉を述べたい。 “読者に夢を与えてくれてありがとう。 主人公の年代を遥か昔に過ぎ去った私でさえ勇気づけられました。 お若い読者が手に取れば本当に襟を正される1冊であると思われます。 あなたにとって、本作品は記念碑的な作品であるかもしれない。 でももっともっと素晴らしい作品を全国のファンが待っています。 10年後もずっとファンであり続けたいのでずっと成長を見守らせて欲しいなと思います。” オススメ(9) この作品は私が主催している第6回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2007年2月28日迄) ...
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