『きいろいゾウ』 西加奈子 (小学館) - 2006年07月19日(水) <究極の夫婦愛を描いた作品。作中の童話も楽しめます。> 作者の西加奈子さんは1977年生まれ。昨年2作目の『さくら』がベストセラーとなったのは記憶に新しい。 本作が3作目となる。 読者である私達が普段、どうしても大切な人に伝えられなくてじれったい気分に陥ることってないであろうか。 少しのことで生じる気持ちのすれ違い、あるいはどうしても相手に聞く勇気が起こらないことなど。 人生は乗り越えなければならない試練がたくさんある。 西さんは本作で、もっとも大きな試練のひとつとでもいうべき夫婦間の信頼の欠如を取り払う方法を読者に示してくれている。 西さんの特徴は物語性が濃くて読者の心に残る物語を書く作家であるということであろう。 本作の主役夫婦である2人のユニークな名前にまず驚かされて読者はページを捲り始める事を余儀なくされる。 動物や植物とお話しできる能力を持つツマ(妻利愛子・・・ツマリアイコ)と売れない小説家のムコ(無辜歩・・・ムコアユム)である。 この2人が東京から田舎へと引越しして約1カ月たった時点で物語はスタートする。 たとえば犬のカンユさんとかチャボのコソクな会話、あるいは老人ホームで復帰漫才をする“つよしよわし”の滑稽さ。 日常に幻想的な話をいとも簡単に取り入れてしまう感受性豊かで自由闊達な文章。 ただ文体が独特なんで少し読みづらいかもしれない。 お互いがお互いの過去における知らないことに妬いたり悩んだりしている毎日を過ごす。 ツマは子供の頃心臓が悪くて1年間病院で入院していたこと。 ムコは背中にに鳥のタトゥーが刻まれていること。 前半は少し茫洋な気もしたが、ムコが過去を清算するために東京に戻ったあたりから楽しめるのである。 もちろん、作中作の童話(きいろいゾウの話)との関連性も興味津々で読み進めること請け合い。 西さんの巧さを感じたのは、ホロリとくる9歳の大地クンの存在。 彼のツマに対する気持ち(ちょっとませ過ぎだけどね)は読者にとって、ムコに真剣にツマを愛してやれっていう気持ちを増長させたような気がする。 ツマにとってムコが“きいろいゾウ”のような存在であれば、2人の夫婦にとって大地クンは“お月様”のような存在なのかもしれない。 ツマもムコも大地クンの存在に励まされ、心が癒されるところが本作を読む一番の醍醐味であると思っている。 ツマもムコもどちらも純粋な心の持ち主である。 はたして神様が与えてくれた試練を2人は乗り越えれたかどうか、あなたも是非この目で確かめてほしいなと思う。 面白い(8) この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年8月31日迄) ...
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