『イレギュラー』 三羽省吾 (角川書店) - 2006年07月12日(水) <青春を五感で体感させてくれる小説。> 作者の三羽省吾(みつばしょうご)さんは1968年生まれ。2002年『太陽がイッパイいっぱい』で小説新潮長編新人賞を受賞してデビュー、その後『厭世フレーバー』(文藝春秋)を上梓、本作は3作目となる。 爽快かつ痛快なストーリーに魅せられること請け合いの作品である。 エンターテイメント小説の世界にて将来を嘱望される作家のひとりと言って良いのではなかろうか。 かつて師弟関係であった結城(教え子)と大木(監督)。 この2人の関係を念頭に置いて読まれるのが一番奥の深い読み方であると思われる。 お互いの心に残ったわだかまりは払拭出来るのであろうか。 物語が始まった時点では立場が逆転していると言えよう。 結城は選抜大会(春の甲子園)に出たばかりのK高校の監督をしていて夏の甲子園出場を目指す。 一方、大木はたった9人しかいない蜷高野球部の監督で村が水害にあい、グラウンドも使えず練習もままならない。 結城が大木にグラウンドを貸すと申し出ることによって物語が大きく動き出すのである・・・ いろんな捉え方が出来るのであるが、大木の“イレギュラー”を目覚めさせてくれたのは結城かもしれないが、救ったのはコーキという若者(素質だけは全国レベル、態度ならメジャーレベルの豪腕高校生ピッチャー)の存在である。 共同で練習するきっかけとなった水害による避難生活の大変さ。 コーキの無鉄砲ながらも男気のある存在が、読者をもグイグイと引っ張って行ってくれる。 本作の読ませどころは試合のシーンよりもむしろ、合同練習後の両校のメンツが友情を深めていくシーンにあると思う。 とりわけ、神原事件(と呼びましょうか)にはハラハラドキドキですね。 あと両校のマネージャーコンビ(琴子と春菜)の可愛さも男性読者には楽しいはずである。 これは読んでのお楽しみであるが、ラストの結城の粋なはからいには胸を高まらせてページを閉じた。 まるで甲子園のアルプススタンドの応援団の気分である。 少し難を言えば、登場人物が多すぎて混同しちゃいました。 私の読解力不足かもしれませんが、そこが本作の魅力と言えばそうなるのかもしれませんね。 ひとりひとりが個性的でありすぎるような気もします。 それぞれのサイドストーリーを書いても楽しめるぐらいである。 たとえば前述した神原のように・・・ ただ、現実は忘れた頃にその人物が出てきて、はたしてこの人はどんな特徴だったかなと思い返すのに四苦八苦したのも事実。 本作も登場人物と同様、荒削りな面も見られる。 後半の試合のシーンでの非現実的(劇画的)な面である。 途中でピッチングやバッティングにおける理論的な話も語られているので、玉石混淆のような気もした。 作者はユーモアをまじえて書かれたのであろうが。 そこは大目にみよう。 必ず本作を凌ぐ素晴らしい作品をどんどん上梓される日が来ることを信じて・・・ 最後に夏の甲子園を目指して地方予選が始まる時期にこの作品を読めたことを幸せに思う。 “人生はイレギュラーがあるからこそ楽しい!” 作者が読者に一番伝えたかったメッセージである。 青春だけでなく人生もほどほどには熱く生きることが必要だ。 面白い(8) この作品は私が主催している第6回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2007年2月28日迄) ...
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