『象の背中』 秋元康 (産経新聞出版) - 2006年07月03日(月) <今年最大の問題作かもしれない!> 小説を読んでレビューを書く際に、“女性読者の感想を聞いてみたい”という文章を書く機会が多い。 男と女は根本的に違う生き物であるという認識を持って生きていらっしゃる方が大半であると思われるのであるが、小説を通してたとえば女性作家のあるいは女性登場人物の考えや生き方に触れ合うことによって、“ああ、人生って勉強の繰り返しなんだな!”とため息をつくことも多い。 本作の場合ほど、読者の性別によって根本的に受け入れられるか否かの差が激しい作品ってないのではないであろうか。 だから、女性の方(特に主婦の方)、是非お読みになって感想を聞かせて欲しい。 主人公の藤山幸弘は48歳で不動産会社の部長。 今までは仕事人間であった。 ある日、突然肺ガンで余命半年を宣言される。 治療に専念するのではなく延命治療をしないと決意する・・・ 近年“死”を題材とした作品に荻原浩さんの『明日の記憶』や重松清さんの『その日のまえに』などがある。 ただし、本作は上記作品とは一線を画する作品であると言っても過言ではないであろう。 上記2作品は病気そのものに対する恐怖心や家族(妻や子ども)に対する愛情が滲み出た作品だと言える。 本作は、もちろん家族や過去に知り合った人々への愛情や気配りもあるのであるが、それよりも男のひとつの生き様を描きたかったのであると捉えている。 というのも、主人公幸弘には愛人がいるのである。 もし主人公に愛人がいなかったなら、上記作品の後塵を拝していたに違いない。 読者の受け取り方は別として、少なくとも愛人を登場させることによって別の輝きを持った作品に仕上がったと言えよう。 もちろん、主人公の誠実さが損なわれたとみられる方もいらっしゃるだろう。 読み進めるにしたがって、どうしてこういう行動に出るのだろうと思われた方も多いであろう。 でも、そういうふうに主人公に対して辛辣な気分になるのがこの小説の狙いでもある。 献身的な嫁を持つ主人公って本当に幸せ者である。 女性読者が読まれたら、こんな奥さんっていないわよという声が聞こえてきそうである。 またこの主人公にこの奥さんってもったいないと思われる方も多いだろうし、こんな人の奥さんでなくてよかったと思われる方もいらっしゃるであろう。 終盤に主人公と妻が手紙をやり取りシーンがある。 主人公の手紙の内容にはさして感動しなかったが、妻の手紙には思わず涙してしまった。 私自身は主人公の奥さんの魅力に取り付かれた読者である。 こんな立派で素敵な奥さんがいるから“主人公も若死にしてもしあわせだった”と言えるのだ。 たとえば、主人公が兄に遺骨を愛人に渡してもらえるように頼む場面やホスピスにて愛人を妻に紹介する場面。 朝まで生テレビで結論の出ない議論が出来そうな恰好の題材である。 男性読者的な視点で考えてみよう。 この作品は主人公の生き様を評価するべきではない。 ひとりの個性的な男としての主人公に賛同するべき作品である。 なぜなら、余命の期間生き生きとしていたのが伝わってきたのである。 秋元流、“川の流れのような生き方”をみせつけられたな。 結論を言えば、私はこの作品は読み応えある作品だと評価している。 ただし、読後もまだまだ葛藤している私です(笑) オススメ(9) この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年8月31日迄) ...
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