『風に舞いあがるビニールシート』 森絵都 (文藝春秋) - 2006年07月01日(土) <人生に向き合う姿が読者の胸を熱くさせる完成度の高い短編集。> 別冊文藝春秋に連載されてたものを単行本化したもの。 全6編からなるが、ひとことで言えば人生の喜怒哀楽が詰まった作品集と言えそうだ。 近年、別冊文藝春秋に連載された作品で直木賞を射止めるケースが非常に多い。 『星々の舟』、『邂逅の森』、『対岸の彼女』など。 本作は短編集であるが作品集としての完成度は非常に高く、上述した作品にも引けをとらない。 全6編、どの作品も軽く書かれていないがために、長編を6冊読んだような充実感を味わえるのである。 まだノミネート作品が決まっていないが、地の利(文春作品)も含めて本作を本命、三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』を対抗と推したい。 森さんの本当にいいところは“頑張って生きている方への応援歌的な話”を誰よりも巧みに書ける点であろう。 正直な話、本作をエンターテイメント作品のカテゴリーに入れるのはもったいないような気がする。 ただ、単に読んで楽しむと言うだけのものではない。 読んで吸収して消化までしたい作品の数々。 主婦やサラリーマンにとってのどのように生きるべきかの指南書的な本ですね。 自分がそうだから余計に肩入れするのかもしれないが、不器用な人が好きだ。 どの作品も普段、働き疲れている読者にもう少し頑張ってみようかなと言う活力を与えてくれる内容のものばかりである。 まず冒頭の「器を探して」。 主人公のように何かに板ばさみになっていることって多々あるであろう。 思い切ったラストの気持ちの切り替えにに度肝を抜かれた方も多いはずだ。 次の「犬の散歩」は犬の里親探しのボランティアをするために晩にスナックで働く女性が主人公。 こだわりをもって生きるって難しいってことである。 「守護神」は夜間の大学が舞台。 代筆レポートをめぐる男女の会話に魅せられる作品。 「鐘の音」は仏像が好きな男が主人公の物語なんであるが、この作品集で一番不器用な主人公である。 人付き合いが下手で、師匠をも怒らせるのであるが運命が彼の人生を変える。 これも彼の信念が強かったからだと信じたい。 個人的にどの作品が好きかと聞かれたら、意外かもしれないが、次の「ジェネレーションX」と答えておこう。 唯一明るめの作品と言っても良いだろう。 どちらかと言えば、『DIVE!!』のような開放感を味わえる作品ともいえるんじゃないだろうか。 携帯電話魔の若者石津のキャラが面白いですよね。 そして女性の方には表題作を読んで欲しいな。 もちろん感動度では一番の作品である。 国連難民高等弁務官事務所に勤める主人公であるが、亡くなった元夫エドの悲しみに明け暮れる毎日を過ごしている。 現場主義を貫き通した夫とのなれそめやすれ違いが生じた結婚生活を振り返り、現状との差異を明確に読者に知らしめてくれる。 ラストの感動度と爽快さはなんとも言えないのである。 私は単純に不況とは言うが今の日本人の平和と幸せを再認識した。 あと、物事をもう少しワールドワイドに見つめなおすことの必要性を感じた。 それにしてもこの洗練された文章と読者を圧倒させるストーリーテリングはなんなんだろう。 森さんの児童書に未読のものがあるのでなんともいえないのであるが、今後どんな作品を上梓し続けるのであろうかという期待感を抱かずにいられないのである。 個人的な意見であるが、本作にはハートウォーミングという形容は当てはまらないと思う。 私は“鳥肌の立つ作品集”という形容をつけたいと思っている(笑) のほほんと生きている自分へのいましめとして読むべきであると思った。 さあ、あなたも生半可な気持ちで読むべき作品ではないということを肝に銘じてページをめくってほしい。 読み終えたあと、森さんの凄さを認識できた方は大切な何かを思い起こせた証拠であると確信している。 はたして、あなたは大切なひと(こと)を大切にするということを怠っていないであろうか? 超オススメ(10) この作品は私が主催している第6回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2007年2月28日迄) ...
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