『まほろ駅前多田便利軒』 三浦しをん (文藝春秋) - 2006年06月16日(金) <チワワがたぐり寄せた読者の胸を熱くする究極の友情物語> だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ。 三浦しをんさんの小説最新作。 出版社からして直木賞千載一遇のチャンスだと見ている。 表題に書いている友情物語だけでなく、家族のあり方(夫婦や親子問題)も必ず考えさせられる魅力的な作品。 家族のいない登場人物が読者に熱き家族小説をエスコートしている。 演じているのは多田啓介と行天春彦。かつてふたりは高校時代のクラスメートであった。 東京の郊外、神奈川県との境にあるまほろ市で便利屋を営む多田とひょんなところで彼と再会する行天。 行天が多田の事務所に居候しさまざまな事件を解決していくストーリー展開。 便利屋っていっても実際は雑用係。冒頭の病院のお見舞いの代理にはじまりペットの世話や塾の送り迎え代行など・・・ 本作を読んで行天を魅力的な人物と感じない読者はいない。 まさに“びっくり仰天”するほどのナイスガイなのである。 伊坂幸太郎の『砂漠』の西嶋を彷彿させる行天。 それに反してごく平凡な多田。 少し人生に対して否定的な多田と人生を達観している行天。 漫才で言えば多田がツッコミで行天がボケの間柄。 ちょっと苦言を呈させていただくと、各章のトップで描かれている2人のイラスト。 あまりにもイイ男すぎないか? でも女性読者にとってはイマジネーションを良い意味で膨らませてくれることであろう(笑) あと、関西人の私はどうしても東京の地理に疎いのであるが(汗)、モデルになっている都市周辺で住む方にはかなり親近感を抱きながら読めることであろう。 これに関してはとっても羨ましく思います。 この作品を読まれて、人間の著しい変化に気づかれた方が大半だと思う。 ひとりの男との出会いによって主人公の多田が癒され再生していく姿。 もちろん、チワワを預かることによって生じた様々な騒動。 行天との再会に始まり、チワワを飼えなくなったマリやその後飼い主になるルルをことにより話を進めていくストーリー展開も目が離せない。 多田と行天ともにバツイチである。 読み終えてどちらの方が辛い過去であったかを考えてみた。 具体的に書くと未読の方の興趣をそぐので書けないのが残念である。 しかし、行天が持っている潔さというか寛大さは決して天性のものではない。 過去の辛い経験が今の彼を支えている。 終盤は行天によって本当に大事なものを多田が気づいていく展開が待っている。 予定調和だとはいえ心地よいことこの上ない。 三浦さんの凄いと思うところは、決して読者が多田を否定出来ないところである。 なぜなら、多田の心の中にある自分の過去に対する“わだかまり”って読者が常日頃持っている不安感や寂しさの象徴のような気がするからである。 この意見に同意してくれる方は、おのずからこの作品の評価が高くなると確信している。 逆に行天は“処方箋的役割”を担って本作に登場している。 ほんの小さな幸せが実は大きな幸せなんだ。 大切なことを気づかせてくれた贅沢な読書であったことを最後に書き留めておきたい。 オススメ(9) この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年8月31日迄) ...
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