『東京バンドワゴン』 小路幸也 (集英社) - 2006年06月19日(月) <じーんと来る小説ではないが、あったかいホームドラマ。読書をその根底から楽しめる1冊と言えよう。> タイトルとなっている東京バンドワゴンは明治から続く東京下町の老舗古書店の名前。 現在80前のかくしゃくとした店主・堀田勘一を筆頭に4世代8人で暮らす堀田一家の春夏秋冬を日常系の謎を織り交ぜながら描いている。 この作品の成功の一番の要因はやはり、語り手が2年前に亡くなった勘一の妻サチであることに尽きる。 彼女が天国から堀田家族を見守るような語り口で読者をエスコートしてくれるのである。 堀田家の朝食時の食卓で繰り広げられるそれぞれの会話が飛び交っているシーンが楽しい。 核家族化が主流となっている現在、4家族が仲睦まじく暮らしあっている姿は読者にはぴんと来ないのである。 裏を返せば本当に珍しくて可笑しい世界なのである。 時代的にはインターネットが登場しているので現代だと思われるが、表紙や語られてる世界観からしてすこしレトロな下町を想像してしまう。 カフェを併設しているのは登場人物の多さからして仕方ないかな(笑) いずれにしてもほのぼのした中でも大事な物は何かを解き明かせてくれる各章は読者にとって心地よいことこの上ないのである。 登場人物の個性的な顔ぶれは、本文前のひとりひとりの案内を読めばよくわかるのであるが、還暦を迎えた伝説のロックンローラーの我南人(がなと)が一番の個性派。 彼が作品中に発する“LOVE”という言葉は語り手であり我南人の母親であるサチが一番欲している言葉だと思う。 ちょっと飛躍した考えかもしれないが、一般的に出来の悪い子ほど可愛いというが、サチにとっては我南人のことを根っから心配しているのであろう。 最終章にて青の本当の母親が見せる愛情行動は、小路さんが読者にプレゼントしてくれたと受け取るべきである。 逆に我南人へのサチの愛情は読者自身が感じ取るものだと私は思っている。 各章にて見せる我南人の人情味ある行動、たとえばマードックに対する姿勢の変化や、長男の嫁・亜美さんの両親に取った軟化した態度などはやはり母親譲りなのである。 彼女は天国からいつもヒヤヒヤしながらも暖かく見守っているのだ。 小路さんの決して良い読者じゃない私ですが(今まで『HEARTBEAT』1冊のみ読了)こういう作品を書いていくと必ず固定ファンが着実に増えるであろうと言う事は間違いないと思う。 読者も小路さんを暖かく見守ってくれるのであろうから・・・ 簡単に総括させていただきますね。 この作品は家族小説であって家族小説でない。 本来、“家族小説”という言葉から想像しうるたとえば家族のあり方とかを根本的に問うたものではないのである。 もちろん作者の意図もそうであろう。 ホームドラマ・・・本当に原作のない脚本のみのテレビドラマを観ているように肩肘張らずに読める小説と言ったらいいのかな。 だから、読んで何かを感じ取る小説を期待すれば肩透かしをくらうかもしれませんが、楽しい読書を求められてる時(方)にはこれ以上の作品はないであろう。 多くの方が手に取ってくれれば、また続編にお目にかかれるかもしれません。 ああ、マードックさんのしあわせな姿を見たいな(笑) あなたも、是非読まれる際は堀田一家の一員になったつもりで読んで欲しいなと切に思う。 面白い(8) この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年8月31日迄) ...
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