『君たちに明日はない』 垣根涼介 (新潮社) - 2005年04月11日(月) 『陽子だって本当は分かっているだろ。今の世の中、リスクはどこにでも転がっている。いい学校を出て新卒で入った企業でも、一生勤められる保証なんてどこにもない。今の仕事をしていると、なおさらそう思う。不安なのは分かる。でも、ぜんぶが全部安全なチョイスなんてありえない。だったらある程度のリスクは承知で、より納得のいく環境を選ぶしかない』 前作、『クレイジー・ヘブン』にて少し今までの勢いがトーンダウンした感が強かった垣根氏であるが、本作はそう言った意味で今後の氏の動向を占う試金石的作品として読んでみた。 氏の最高傑作と呼ばれる『ワイルド・ソウル』の壮大なスケールにはほど遠いのは否定しないが、楽しく読めるエンターテイメント作品に仕上がっていると言うのが私が下した本作の結論である。 前々作(『サウダージ』)あたりから感じていたのであるが、現在の読書人口の過半数以上が女性であるという点を垣根氏に認識してほしいなと強く思っていた。 氏の作品の魅力はカッコいい登場人物(多少エッチでも許容範囲内ならOK)に対する読者の共感につきると思っているのであるが、前々作あたりから少し進むべき方向性が間違っていたのではないだろうかと強く感じていた。 というのは、性描写がキツクって他人に薦め辛い作品に仕上がっていたのである。 はたして氏の本当のファンは望んでいるのであろうか? とりわけ、女性が読んだら“女性蔑視的にも受け止められる描写が多かったのである。” “垣根氏の主人公は硬派であればあるほど魅力的であることを忘れてはならない。” 本作は少なくとも上記からは脱出出来たと思っている。 読者と距離感の近い主人公の物語を上梓した点においては垣根氏のターニングポイント的作品と言えそうだ。 現代社会において避けることのできないリストラ問題。 特筆すべき点は、各篇に登場するリストラされる側の問題点のみならずリストラを推し進める人間を主人公として取り上げた点であろう。 彼の名は村上真介、33歳。 「日本ヒューマンリアクト」という会社に勤務。 職務内容は退職勧告。 人事部に代わって本人と面接し、退職を勧める仕事である。 リストラされる側の人物は本当に多様である。 銀行員、音楽プロデューサー、イベントコンパニオン、玩具メーカーの社員など・・・ 垣根氏は本作で様々な人の人生を切り取ることに成功している。 一篇目で面接する陽子(41歳)と恋愛関係となりその後の各篇の物語と同時進行的に進む。 今までの若くて派手な女性(たとえば『サウダージ』のDD)の登場はなく、唯一それに近い感じのアシスタント的な務めを果たす若い女性とではなく、8歳も年上のバツイチ女・陽子と恋におちいるのである。 意外に感じられた読者も多いんじゃないかな。 しかしながら、この構成(年上の地味な女への愛情)が物語を薄っぺらいものから骨太なものへと変えていっているのである。 仕事が人生を変えるのは本作を読めば自然とわかる だけども(出会い→恋愛)が人生を変えることをも再認識させてくれる点が一番の評価すべき点であろう。 あと彼らの恋愛のみならず、リストラされそうになった場合の心の持ち方について読者に提示してくれている点は素晴らしいなと思う。 これからはクライムノベルに拘らず、本作のように普通の人々の物語も紡いで欲しい。 滑らかな文章とワクワクするストーリー展開、垣根涼介のリハビリはもうすぐ終わろうとしている。 少し身につまされた話を読み終えた私たち読者は、明日からの生活・仕事に活力を与えてもらったような気になるのは果たして気のせいだろうか・・・ 評価8点 2005年31冊目 ...
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