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『ボーナス・トラック』 越谷オサム (新潮社) - 2005年04月03日(日)

ボーナス・トラック
ボーナス・トラック
越谷 オサム

しょうちゃんも明日香お嬢様も、優しい子だよな。なんちゅうか、世の中捨てたもんでもないよね。
この世には轢き逃げする外道もいるけど、その現場に花を置いてってくれる人だっているんだもんな。
いい奴ばっかりじゃないけど、悪い奴ばっかりでもない。そんな当たり前のことが、今はよくわかる。


爽やかな新人作家の登場に盛大なる拍手を贈りたく思う。
本作は第16回日本ファンタジー大賞優秀賞受賞作。
第15回の大賞を受賞された森見登美彦さんの『太陽の搭』の独特な文章も記憶に新しいが、本作は優秀賞ながら万人受けする点では森見氏の作品を凌ぐ傑作と言えよう。

物語は轢き逃げ事故を目撃する大手ハンバーガーショップ勤務の草野と、轢かれて死亡したはずの大学生亮太の幽霊との2人の掛け合い漫才のような展開が読んでいて読者を越谷ワールドへと招待してくれるのである。

読みやすく適度にユーモアを織り交ぜた文章は本当に新人離れしている。
草野と亮太、ダブル主人公と言っても過言ではないのであるが、2人とも本当に少し歯がゆさがあるが憎めないキャラである。
草野が“真面目で不器用”、亮太が“お調子者”。
自分自身の中に2人の違った要素を垣間見た読者は本作に釘付けとなるのである。
少しの年齢差(5〜6才草野が年上のはず)も巧く機能して名(迷?)コンビを結成しているのである。
年下で幽霊の亮太が仕事の忙しさで人間らしさを忘れつつある草野のコーチ役となっているところが微笑ましい。
この関係が物語全体を本当にハートウォーミングなものとしていわば“越谷ワールド”を構築していると言えそうだ。

ハンバーガーショップに頻繁に行かれる方には、裏舞台のいい勉強にもなるであろう。

途中で、南(だいちゃんのほう)が幽霊を見れることが明らかになり、具体的に幽霊を成仏させるシーンがあるのであるが、ここが読ませどころになるのであろう。
あと、南(しょうちゃんのほう)に惹かれる亮太の初々しさも楽しいかな。
何、だいちゃん、しょうちゃんがわからない(笑)
これは読んでのお楽しみと言うことで・・・

“真面目にやっていればいいことがきっとある!”
読者がもっとも小説に期待している点をファンタジックにサラッと描写出来る点は本当に見事のひとこと・・・

この作家ただものではないと断言したいです。
仕事に疲れているサラリーマンの方必読の1冊です。
きっと心に潤いを与えてくれるでしょう・・・

評価9点 オススメ

2005年28冊目


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