『雨恋』 松尾由美 (新潮社) - 2005年03月04日(金)
松尾さんの作品は今回初読みである。 ご存知の方も多いと思うが、この作品、帯がかなり話題となっている。 あの松尾由美が、こんなにストレートな切ない恋愛を書くなんて 出版社の販売戦略の凄さに驚いた次第であるが、ラブストーリーを期待して読まれた方はどう感じたことだろう・・・ 少なくとも、これまで松尾さんの作品を多数読まれてきた方には、やはり驚くべき部分=“作風としての変化”を見出せるのであろうか? 本作はジャンルとしたら“SF恋愛ミステリー”という括りに当てはまるのであろう。 読んでみてミステリーとしたら本当に巧みに書かれていると思う。 今までの松尾さんの力量が文章に乗り移っているのであろう。 多少なりとも、女性作家ならではの、男性主人公・沼野渉に対する描き方が少し納得行かない部分もあるのだけど、読者の大半が女性だからいたしかたないであろうか・・・ ただ、やはり本作のセールスポイントとなる“恋愛色”も多少なりとも忘れてはならない。 正直、私自身それほど感動した話ではない。 本来、本作をはミステリー面と恋愛面、どちらも均等に楽しむべき作品なのかもしれない。 不器用読者の私は(笑)、それが出来なかったのである。 私自身は“ミステリーに程よく恋愛面がブレンドされた作品である”と認識して読んだのである。 逆の読み方(“恋愛面中心”)をすればあんまり楽しめなかったのではないかな。 そう言った意味合いにおいては、賛否両論ある帯の文句(どちらかといえば否の意見の方が多いようである)は、従来からの松尾作品のファンの方が“恋愛面をもブレンドさせた作品を書くようになった!”ことを認識すべく言葉だと捉えるのが無難なような気がするのである。 帯のことに言及したので装丁についても語りたい。 特筆すべきは表紙の装丁の素晴らしさである。 これは本作を読んだ人にしかわからないのが残念だ。 男性読者なら、必ず千波の顔を想像しつつ楽しんだことに違いない。 あと、書き下ろし作品の為に文章に一切無駄がなく、わずか250ページ余りだけど読者を充分に堪能させる内容である点は高く評価したく思う。 もうひとつ付け加えると、“ネコ”好きな方が読まれたら楽しさ倍増かな。 次は“犬”が出てくる『スパイク』に挑戦予定です(笑) 少し余談になるが、出版界もどしゃ降りとまでは言わないまでも、“雨か曇り”の状態が続き本当に“本が売れない時代”である。 作家も生き残りの為に、今までと違ったジャンルや、あるいは本作のように融合したジャンルの作品を書くことを余儀なくさせられそうであることは想像にかたくない。 いったいいつになったら“日本晴れ”がやって来るのだろうか? 渉と千波の晴れた日の再会を願うように本が売れる時代の復活を願いたく思う。 評価8点 2005年20冊目 ...
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