『弘海 息子が海に還る朝』 市川拓司 (朝日新聞社) - 2005年03月05日(土)
弘海は不器用な子供だった。おそらくぼくに似てしまったのだろう。彼はまるで、この星の重力や言葉にどうしても慣れることができなくて、故郷の星に帰りたがっている小さな訪問者のようだった。 市川拓司さんと瀬尾まいこさんの新刊は必ず2度読むことにしている。 なぜなら、2度目には違った部分の感動が得られるからだ。 通常、彼らの新作を読むときにはまるで受験生が合格発表を見に行く際にごく自然に出てくる胸の高鳴りを味わうことが出来る。 しかしながら、本作は2度目を読む気力が失せてしまったと言うのが偽らざる気持ちである。 もちろん、綺麗な文章は健在で本当に読みやすい。 本作においても、市川さんお得意の親子愛はもちろんのこと、理想の夫婦愛を見出すことが出来る。 しかしながら、例えばミリオンセラーとなった『いま、会いにゆきます』や前作『そのときは彼によろしく』のような読者の心に響く物語であるかどうかと問われたら、答えはどうしても否定的なものとなってしまうのである。 なぜなら、読者がタイトルから推測する通りに話が展開し、それも現実感が乏しく、かつファンタジーというほどでもない。 なんか中途半端な感じなのである。 予定調和すぎてあっけなさすぎる点は否めない。 例えば、前作『そのときは彼によろしく』のように、最後にタイトル名の真相を気づかせるというウルトラC的な要素は皆無である。 もう少し含蓄のあるタイトル名にして欲しかったような気がする。 内容的には市川さんのひとりのファンとして率直な意見を述べさせていただくと、もっと弘海少年の苦悩や淡い恋心を描写して読者のハートを射止めて欲しかったと思っている。 あまりに親の視点から中心に描きすぎていて、一方通行過ぎるのかもしれないと感じられた。 なぜなら市川さんのファン層はもっと広いはずであるから・・・ 少し否定的なことも書いたが、もちろん素晴らしいシーンもある。 弘海が公太と別れるシーンである。 やはりこのシーンはグッと来ましたね、さすがに・・・ 市川作品は本作で5冊目である。 もし、氏の作品を初めて読まれる方がいたら本作以外の作品を薦めたく思うのは果たして私だけであろうか・・・ 感動的な作品を書けて当たり前のステージに登りつめた今、氏に対する大きな期待が少し辛口な感想となってしまった。 次作以降、さらなる飛躍を期待したく思っている。 評価6点 2005年21冊目 ...
|
|