『だいこん』 山本一力 (光文社) - 2005年03月03日(木)
時代は江戸中期、天明・寛政の頃。 江戸浅草で一膳飯屋“だいこん”を営むつばき一家の物語である。 日頃、心暖まる小説に飢えている人は本作を手に取ればいい。 明日からは“もう少し頑張ってみよう!”と読者に必ず思わせてくれるところに直木賞作家の底力を垣間見た気がする。 なんと言ってもヒロインつばきのキャラが素晴らしい。 男性読者が読めば、必ず惚れ込む事間違いなし。 過去を遡れば、たとえば藤沢周平さんの『蝉しぐれ』の牧文四郎がとっても印象的であるが、本作のつばきも文四郎に負けず劣らず読者を引き付ける魅力的な人物だ。 いわば、読者が主人公に惚れる作品の典型的な例として語り継がれる作品だと言えそうだ。 とにかくヒロインつばきの“芯の強さ”を読者は見習わなければならない。 ただ単に、ひとつのサクセスストーリーとして読むのもいいのだろうが、やはりそのひたむきな性格と卓越した商売に対する才覚を実感しながら読むと、“読書って楽しくて有意義なものなんだな”と肌で感じることが出来る作品である。 もちろん、私たちが生きている現代は、この作品のように簡単には行かない。 しかし、少し物ごとに対して後ろ向きに考えがちな人(私も含めて)が手に取ったら、必ず主人公のつばきが読者の背中を押してくれるような気がするのである。 なぜなら、彼女のひたむきさは、現代小説の作中の人物では実感できないレベルだから・・・ 少し物足りなく感じた点は、ヒロインつばきの恋模様の描写が少ない点であろうか・・・ 山本さんはその宿題を続編にて応えてくれるであろうと切望したく思う。 少し余談となるが、タイトルともなっている“だいこん”。 安くて美味しい庶民的な食べ物の代表である。 このネーミングは、ヒロインつばきのイメージだけでなく、家族の情愛を描かせたら右に出るもののいない作者・山本さんの人柄をも彷彿させられたのは私だけであろうか? “だいこん”を食べるように、お気軽に手にとって欲しい一冊である。 評価9点 オススメ 2005年19冊目 ...
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