『追憶のかけら』 貫井徳郎 (実業之日本社) - 2005年02月27日(日)
貫井さんの熱心なファンの方が聞いたらお叱りの言葉を頂戴するかもしれないが、貫井さんもここまで書けるようになったのかと感心してしまったのが読後の率直な感想である。 作中作として戦後すぐに自殺した作家が記した未発表手記が本作の半分近くを占めるのであるが、これが初め旧仮名遣いの為に文章が読みづらいのであるが読み進めて行くうちに主人公の気持ちに読者が引き込まれていくのである。 これは本当に素晴らしい、貫井さんの隠れた才能を垣間見た気がするのは私だけであろうか・・・ 作品全体としては、動機付けや主人公のうだつのあがらない性格など、いささか感心しない点があったのも事実。 たとえば主人公の奥さんが実家に帰った(別居)為にこの物語は始まるのであるが、そのいきさつ等も少し不自然なような気がする。 貫井さんの優しさが少し詰めの甘さに繋がっているようにも感じられたのは残念。 個人的には手記が秀逸だった為に、その語のミステリー解明部分が二転三転して結果として欲張りすぎたような気がする。 しかしながら、読者がこの作品を読んで、“今、まわりにある大切なものを見つめなおすいい機会”となった方は大きな収穫のあった読書だったような気がする。 評価が分かれる作品と言えそうだが、少なくとも貫井フリークの方には1冊で2冊分楽しめた作品なのは間違いないところであろう。 評価8点 2005年18冊目 ...
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