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『雪の夜話』 浅倉卓弥 (中央公論新社) - 2005年02月12日(土)

雪の夜話
浅倉卓弥著出版社 発売日 200501下旬価格  ¥ 1,575(¥ 1,500)ISBN  4120035840bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

デビュー作『四日間の奇蹟』のヒット(80万部らしい)と映画化決定で、ベストセラー作家への仲間入りを虎視眈々と狙っている浅倉氏であるが、第3作の本作でようやく宝島社以外の出版社から上梓、前途洋々な作家のひとりである。

本作は年に1度雪が積もるか否かのところに住んでいる読者の私なんかよりも、ずっと北国に住まれてる方の方が感情移入できることは容易に想像出来る。

それほど浅倉氏の情景描写は卓越している。
寒さの厳しさを身を持って体験している(浅倉氏は札幌出身らしい)氏のまなざしは一貫して優しい。

表紙の装丁も印象的で、まるで主人公の相模和樹が書いたようだ。

高校2年の冬に初めて雪子と出会って以来、8年ぶりに再会出来るには必然的に東京での挫折が必要であったのであるが、東京において挫折感を味わう過程が特に巧みに描かれてる。
特に水原・山根・吉田との関係というかバランスが現実的に書かれていて、読者も他人事ではない。

実際、主人公と同じような気持ち(挫折感&孤独感)を持って生きている人が多いような気がする。
というか、誰もが持ち合わせている“心の側面”をピンポイントに描いた作品なのである。

後半の8年前と全然変わっていない雪子を見て、驚き、やがて命の大切さを知って行く過程で読者の大半が心が洗われる。


物語において妹、夏子の現実主義者としての演じる役割は大きい。
和樹は東京で馬が合わなかった吉田と夏子の婚約者である沢村とをオーバーラップしてるのだが、夏子に言わせれば所詮“似た物同志”なのである。

個人的な本音を言えば、この話は大人の童話としてもっと徹底してほしかった。
雪子が去って、美加との交際が始まるのであるが、雪子の生まれ変わり的存在として演出してほしかったなというのが私の希望である。
浅倉氏もロマンティックであるが私もロマンティックなのであろう(笑)

結果として本作は“現実とファンタジー”を融合させた力作と言えるであろう。
というのは、和樹が支えられたのは雪子だけではないからだ。
いや、雪子には“大事なことを教えられた”と言うべきであろう。
前述したが、妹・夏子の兄に対する“説教”に兄妹愛を強く感じたのであるが、ラストの“もうひとりの雪子”という着地点のつけ方からして浅倉氏も“兄弟愛”を力説したかったのだと思ったりする。

最後まで読み終えた後、もういちど序章の4ページを読み返して欲しい。
きっと感慨ひとしおになるであろう。
そう、公園はもうないのである。
読者も現実の世界に戻らなければならない切なさ。

真冬に読んで、せめて心の中だけでもぽっかぽかに暖かくしてほしい。
私だけでなく、浅倉氏の切望するところであろう。

評価8点

2005年16冊目


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