『夏の名残りの薔薇』 恩田陸 (文藝春秋) - 2005年02月07日(月)
文春の“本格ミステリ・マスターズ”シリーズの1作。 舞台はある山奥のホテルということで久々にミステリーを楽しもうと思って手に取ったのであるが、肩透かしを喰らわされたと言うのが偽らざる気持ちである。 “幻想小説”あるいは“叙述小説”として違った視点で読まれる方は、楽しめるのかもしれない。 それぞれの章(第一変奏〜第六変奏という名で表している)ごとに語り手が変わって行き、徐々に人間関係が露わになっていく過程の描写が特徴である作品なのは間違いないのであるが、全体を通して三姉妹はもちろんのこと、桜子兄弟など登場人物に共感出来ないという気持ちが強いのも事実である。 不倫はいたしかたないとしても、近親相姦は受け付けないな(笑) どこまでが嘘でどこまでが真実なのかに読者は振り回されるのであるが、果たして心地よく感じられるであろうか? あと、随所に映画「去年マリエンバートで」引用文献があり、興味を持たれてる方には面白いのかもしれないが、逆に中途半端な引用であるようにも感じられた。 小説は作者の想い入れが伝わらなければどうしようもない。 読んでいてその部分(引用)があるから醒めてしまったような気がする。 たとえば、巻末の恩田さん自身のあとがきや評論家の解説を踏まえつつ、もう1度読み返してみたら、かなり楽しめる作品なのかもしれないが、そこが根っからの恩田ファンであるかどうかの分岐点だともいえそうである。 ファンでない方には多少なりとも、モヤモヤしたものが残るような気がする。 本作は恩田さん自身が好きなように書かれた実験的作品だと思う。 読者にリスクを負わしたその恩返しとして、巻末にインタビューを載せているのだろうか・・・ 本文よりインタビューの方が楽しめた方も多いような気がするのはなんとも皮肉な結果である。 本作は恩田ファンを飛び越して、“恩田フリーク向けの作品”だと言えそうだ。 私が導き出したひとつの結論である。 評価5点 2005年14冊目 ...
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