『ボーイズ・ビー』 桂望実 (小学館) - 2005年01月21日(金) ボーイズ・ビー 桂 望実 私たちが生きていてこんなことがよくあると思う。 “まさかこの人とこんなに親しくなれると予期してたであろうか?” 人生における出会いとは本当に奇遇である。 薄い220ページ余りの本の中に、私たちが生きて行く上で最も普遍的な友情・兄弟愛・親子愛・自己再建というテーマが盛り込まれている。 友情を結ぶ人物(栄造と隼人)の年齢差がなんと58歳。 本作は世代を超えて読み継がれるべき恰好の1冊となった。 現実的にはたとえば祖父と孫以外には考えられないかもしれないが・・・ 老人の頑固さと、少年の純真さが上手く溶け合って物語り自体を凄く厚みのあるものとしている。 小説としての設定は本当に唸らせるほど巧みである。 年老いた靴職人の栄造が自分を取り戻す為に靴作りに精を出す。 必死に見守る隼人の姿が読者の脳裡に焼き付いて離れない。 その他プリンを作る場面、室田先生の財布からお金が盗まれた事件。 欲張り読者の私は、作中に亡くなった母の双子の妹・美佳が一緒に住むと言うエピソードがあるのだが、もしパパの幸せを願って一緒に住むことを了承した兄弟というのも見てみたかったような気がする。 幅広い年代に読まれるべき作品だから、無理だったのでしょうが・・・ 私自身は隼人って優しいだけじゃなく、とっても心の広い少年だと思っているから。 「か、母さんはーーみ、美佳おばちゃんじゃない」涙を袖で拭った。「美佳おばちゃんは母さんになれない。そんなこと、父さんだってわかってるでしょ。そ、そんなことーーずっとわかってると思ってたよ。淋しいよ。淋しいんだよ。誰がいたって、淋しいんだよ。母さんじゃなけりゃ、淋しいんだよ」 隼人少年に教えられることって本当に多い。 人間誰にでも栄造のように頑固で偏屈な面は持ち合わせていると思うから。 作中の栄造にとっての隼人存在が、読者にとってのこの本自体の存在に等しい。 生きる勇気を与えてくれるのである。 とりわけ男の子を持つ母親が読まれたら、きっとこんな子に育って欲しいと感じることであろう。 少し父親の視点から語りたい。 隼人・直也少年を子とした父親・正和って幸せものだ。 亡き妻・美穂が残してくれた至福のプレゼントである。 ずっとずっと大切にして欲しい。 心から願っている。 有意義な読書を終えたあとの心地よさをあなたも味わって欲しいなと思う。 評価9点 オススメ 2005年10冊目 ...
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