『グラスホッパー』 伊坂幸太郎 (角川書店) - 2005年01月04日(火)
例えば“伊坂幸太郎ってどんな作家なの?”と聞かれたとする。 答えになっていないかもしれないが私は次のように答える。 読者に“「この作家の新刊だけは必ず買おう!”と思わせる数少ない作家だよ!” 今やネット界だけでなくその実力人気共にトップスターにのし上った感の強い伊坂氏であるが、意外と本作に対する評価というのは低いものである。 私が思うには下記の2点が挙げれるかなと思う。 まずひとつはやはり殺人が発生するので読後感が良くないという点。 次に他作に比べると感動的と言う面では弱いという点。 確かにその通りかもしれない。 ただ読者も伊坂氏の頭脳のように柔軟性を持って臨む必要があるのかもしれないなと思ったりするのである。 ズバリ、本作は“ユニークな会話”の楽しさと“巧みに張られている伏線”を中心に楽しむべき作品である。 まず前者であるが、伊坂氏の近年稀に見る卓越したユーモアセンスに基づく文章展開は本作において頂点を極めたと言って過言ではないような気がする。 “漫才を読んでいる”という言葉がピッタシかもしれない。 後者はスピード感溢れる展開のところどころに張られているのでじっくり読みましょう(笑) 種明かしを楽しみにして・・・ 本作は、鈴木・鯨・蝉の3人が交互に描かれている。 読者はどこで登場人物がクロスするのか捲るページを止めることが出来ない。 各章の始めにハンコ状の○の中に3人の名前が書かれた文字が印象的である。 展開はテンポが良いという言葉がまさに当てはまる。 個人的には鯨と蝉との対決が本当にワクワクしたことを書き留めておきたく思う。 ズバリ、キーポイントは主要登場人物のひとりである“鈴木”の立場に立って読めるかどうかであろう。 少し気弱なところが実に魅力的な人物として描かれている点は印象的だ。 私なんか鈴木さんが未来の伊坂作品に登場しないかなと密かに期待しております(笑) ↑でも少し述べたが、伊坂作品に接する際に楽しみのひとつでもある圧倒的な家族愛・親子愛であるが、本作においてはいささか弱い。 確かに鈴木の亡き妻に対する夫婦愛がクローズアップされてはいる。 たとえばラストにおけるバイキングのシーンはいいのであるが、長男の健太郎と次男の孝次郎兄弟に対する気持ちはいささか飛躍したというか無理が生じたなと思ったりしている。 そのあたり少し“伊坂幸太郎はまだまだ発展途上である!”と思いたい。 これは氏の資質の高さを物語っている言葉のつもりである。 伊坂氏は本作において人間ひとりひとりの弱い部分をさりげなく描写している。 こんな人間性の豊かな殺し屋っているのだろうか? あなたも是非体感して欲しく思う。 伊坂作品を楽しむことによって、私たちも索莫とした時代だから心だけは豊かになりたいものだ・・・ 評価8点 2005年3冊目 ...
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