『卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし』 宇江佐真理 (講談社) - 2004年12月05日(日) 八丁堀喰い物草紙 江戸前でもなし 宇江佐 真理 宇江佐真理の作品は何度読んでも飽きない。 なぜなら、結末がわかっていても宇江佐作品に集中してる時の“幸福感”を読者が実感出来るからである。 少し心が弱ってる時に読むと効果抜群の宇江佐作品であるが、またまた恰好の1冊を読者に提供してくれた。 題名から推測出来るように食べ物を題材とした連作短編集である。 近年歴史小説も書かれている宇江佐さんであるが、本作は従来の宇江佐さんの得意分野(庶民的な市井もの)により磨きをかけた作品と言えそうである。 彼女の代表作である“髪結い伊三次シリーズ”のようにハラハラドキドキさせられる恋愛模様の展開はみられないが、夫婦や家族のあり方をじっくりと考えさせられる秀作に仕上がっている。 物語の主人公のぶは隠密廻り同心正一郎の妻として八丁堀に嫁に来て6年になるが、子宝に恵まれず主人の正一郎からも冷たくあしらわれる毎日が続く。 ただ、のぶ自身もかなり偏食家なのが玉に瑕なのである。 そこを舅であり大の食い物道楽である忠右衛門が彼女を助け、気をまぎらわせてくれるのであるが・・・ 出てくる食べ物は「黄身返し卵」「淡雪豆腐」「水雑炊」「心太」「卵のふわふわ」「ちょろぎ」 各篇の題名にもなっており、食べ物と物語の内容が巧く調和されていて読んでいて心地よい。 物語は親子であり主人公にとって夫&舅にあたる、“冷淡な”正一郎と“心優しい”忠右衛門のコントラストで一気に読ませてくれる。 このあたりの人物設定の巧さ、あるいはそれぞれの人物にまつわるサイドストーリーの数々の描写の的確さは群を抜いているとあらためて実感した次第である。 当初、正一郎ののぶに対する冷たい仕打ちに腹立てられた方も多いと思う。 私もその中のひとりだ。 若い頃に婚約者に裏切られたトラウマから、女性不審に陥っているのである。 上記で述べたのぶの偏食ぶりが、彼女の少し頑固さを導き出し、その結果として家を飛び出してしまうのであろうかと推測する。 もちろん、女性読者からしたら“あんな主人だったら当たり前だわ”とお怒りのお言葉を頂戴しそうな気配もするのであるが(笑) しかしながら、過去のいきさつや子供の頃からの育った環境などをふまえたら、彼(正一郎)に対しても少しづつ理解が出来てくるのである。 このあたりの読み取り方が宇江佐作品を楽しむキーポイントのような気がするのは私だけであろうか? きっと読者のまわりにも同じように不器用な人っていることだと思うから。 ひとつの心残りというか期待は忠右衛門の覚え帖が最後まで見つからないことであろう。 このあたり、宇江佐さんの“いじらしさ”を強く感じた。 ほとんどの方の予測どおり、物語の結末としたら決してハッピーエンドではなく終わってしまう。 ただ、新しい命も誕生した。 “物事は気の持ちようでどうにでもなる。” この物語が教えてくれた教訓である。 願わくば念願の“直木賞受賞”この作品で取ってほしいなとファンのひとりとして強く願っている。 評価9点 オススメ 2004年109冊目 ...
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