『幸福な食卓』 瀬尾まいこ (講談社) - 2004年11月24日(水)
“新刊が出て真っ先に買って読みたい作家をひとりあげなさい”と言われたら誰を選ぶであろうか? ほとんどの方には非常に難しい質問かもしれない。 しかしながら私の解答は明確である。 瀬尾さんの作品が今現在において、“もっとも買ってすぐに読みたい衝動に駆られる作家”である。 大きな賞を取ったり、あるいは宣伝力で売れてる駄作の数々よりも、もっと瀬尾作品に光明がさされてもと思っている。 本作は瀬尾さんの第4作目である。 ジャンル的には家族小説と言えそうであるが、恋愛小説と青春小説も兼ねている。 読者のスタンスに合わせていろんな読み取り方が可能であると言えよう。 個人的には今までの作品の中でベストだと自信を持ってオススメしたく思う。 作中のマフラーみたいに“クリスマスプレゼントとして愛する人に贈りたい素敵な作品”に仕上がっている。 デビュー作であり中編集『卵の緒』は例外として、長編である『図書館の神様』や『天国はまだ遠く』の主人公と違って主人公は中学2年生。 人生においてもっとも多感な時期を過ごす主人公を中学生の講師を兼任している瀬尾さんがもっともテンポの良い言葉で紡ぎ出す。 文体の溌剌さなんかは『卵の緒』のテイストに近いものがあるかな。 出てくる食べ物なんかもふんわりとしていて、凄くこの作品にマッチしてることを忘れてはならない。 主人公佐和子をとりまく家族環境を少し説明しよう。 父親が5年前に自殺未遂を果たし、母親がその後別居生活をしている。 佐和子は父親の事件がトラウマとなり、毎年事件のあった梅雨時期には体調を壊すことがしきり。 6才年上の兄・直は成績優秀であったのだが大学進学を諦めて農業に携わる。 物語はある日突然父親が「父さんが今日で父さんを辞めようと思う」というセリフで始まるのである。 全4章からなるが、3章目までは過去の瀬尾作品より落ちるかなというのが率直な感想であった。 ところが、最終の第4章(「プレゼントの効用」)にて一気に読者は目を釘付けにして読むことを余儀なくされてしまうのである。 第1〜3章までは“前書き&伏線”、第4章が“本編”といった感じであろうか・・・ それほど最終章のインパクトは大きい。 少しオーバーな表現かもしれないが、一瞬“心臓が止まりそうになる”のである。 恋人役の大浦君がとっても印象的だ。 過去の瀬尾さんの作品にも必ず登場する相手役であるが、爽やかさにおいて彼に勝るものはいない。 女性読者なら、きっと大浦君の虜となるであろう。 男性読者が読めば大浦君が羨ましく思い、女性読者が読めば佐和子が羨ましいと思う。 それも当たり前のようにごく自然と・・・ 瀬尾さんの作品って意外と普遍性が強いんだと思う。 主人公佐和子が作中で大浦君に癒されたように、読者も瀬尾作品によって大いに癒されページを閉じた。 少しため息をつきつつ、切なさをかみしめながら・・・ 瀬尾作品の主人公のように、読者も“多感”でなければ瀬尾作品に対応できない。 なぜなら瀬尾作品は“純愛小説”より“純粋”であるから・・・ 本作は私に命題を与えてくれた。 “本当の幸せ”について考えてみる必要があるのではないか? それほど私にとっての瀬尾作品は、私という人間の“原点”に立ち返る絶好の機会であると言えよう。 「いやだ。いやだ」私は泣きながらそう叫んでいた。止めようとしても、涙も声も止まらなかった。胸が痛くなるほど鼓動が鳴って、息が苦しくて、手足が震えた。身体は何一つ思うように動かなくて、涙も声もどんどん激しく突き上げてきた。もう自分では何もできなかった。歩くことも、泣くことを止めることもできなかった。 評価10点 超オススメ 2004年105冊目 ...
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