『散る。アウト』 盛田隆二 (毎日新聞社) - 2004年11月22日(月)
『夜の果てまで』の文庫化のヒットでブレイクした盛田氏の待望の書き下ろし最新刊である。 今までの氏の良い所をミックスさせたような内容の作品で、初めて氏の作品を読まれる方には恰好の入門書となることであろう。 舞台は東京の日比谷公園→モンゴル→シベリア→富山→フィリピンと流れていく、まさにジェットコースターノベル。 モンゴルで知り合ったヒロインのダワが素晴らしい。 もはや日本においてうだつが上がらない存在となっていた主人公の木崎耕平。 彼を見事に変身させてくれたのはダワのひたむきさに他ならない。 先物取引に嵌ってしまい妻子を失って浮浪者に成り下がっていた耕平が、ダワと触れ合うことによって彼女の“自分とは比べ物にならない位に辛い過去”を知り、国籍・男女を超えた人類愛に目覚めていく。 とりわけ迫力満点のマフィアに追われて逃亡するシーンと、日本に戻ってアヘンを届けないと決断したシーンがとっても印象的である。 少し意味合いがあやふやだったのでネット辞書で調べた所、“chill out”って<米俗語>で“落ち着く”とか“頭を冷やす”とかいう意味であるらしい。 やるせなさを感じた時に読めば必ず“人生って満更でもないじゃない!”って痛切に感じさせてくれる説得力を持った作品である。 盛田氏の作品の中はもちろんのこと、他の作家との比較においても本作は新しいタイプの小説と言っていいのであろう。 簡単に言えば恋愛小説とハードボイルドとをうまくミックスされている。 しかし、そういった単純なカテゴリーにおさめたくないような気がするのである。 あえてネーミングすれば“再生小説”といったところであろうか・・・ 個人的には、いろいろ(例えば外国の諸事情など)勉強をさせてもらった稀有な作品であるとも思っている。 盛田氏の綿密な現地取材が読者によく伝わってきた証拠かな。 あと前半とラストに登場する砂田の存在が物語を一段と印象深い物としている点を忘れてはならない。 砂田と同様、読者も耕平の変貌振りに驚愕し感激して本を閉じることが出来ただろう。 人は1ヶ月でこんなに変われるものであろうか? 今頃耕平はどうしてるのだろうか? 本を閉じたあとも彼の存在が気になるのである。 あたかも実在している人間のように・・・ 誰もが持ち合わせている“人間の弱さ”を耕平の中に見出し共鳴したのであろう。 “たかが小説、されど小説!”である。 盛田氏の作品を読めば“人間ってちっぽけなものなのだな”と痛感する。 だからこそ“懸命に生きなければならないのだ!”ということを学び取ったはずである。 必ず、“勇気が湧いて本を閉じることが出来ます”と断言したい。 また少し落ち込んだ時に本作を手に取ろうと思う。 だって、“人間って何かを信じて生きていかなければならない!”から・・・ 盛田氏の作品が“精神安定剤”のように感じられる今日この頃である・・・ 評価9点 オススメ 2004年104冊目 ...
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