『明日の記憶』 荻原浩 (光文社) - 2004年11月27日(土)
本作は、主人公が“若年性アルツハイマー病”に罹って段々悪化していく過程を描いたものである。 内容からも推測できる通り、いつもの荻原さん特有のハチャメチャなユーモアが完全に抑制されている。 そこに氏の並々ならぬ本作への“熱き想い”を感じ取られた方も多いのであろう。 本作を通して読者はアルツハイマー病という病気の恐さを否応なしに知ることが出来る。 荻原さんは本文中の日記において病気の進行度を如実に描写した。 始めは誤植かな思われた方もいらっしゃることだと思う。 一番胸に打たれたのはやはりアルツハイマー病に罹っているとわかりつつも、愛娘の結婚式まではなんとか会社に残りたいと言う愛情である。 ただ、この作品ほど周りに患っている人がいるか否かによって感じ方が違う作品はないのだと思う。 幸い私自身身近にいないので自分の幸せを身に沁みて感じ取ることが出来た。 しかし危ないのは私自身である。 本作における様々な兆候が自分自身にも見出すことができるのであるが、果たして私だけであろうか? 自分には関係ない思えるのはせいぜい20代ぐらいまでで、やはり30代に突入すると物忘れも本当に激しくなる。 年々忘れっぽくなっている自分を自覚されてる方も多いであろう。 しかし敢えて周りの人々=家族の大切さを謳った作品であることを強調したいなと思う。 「もういいよ、俺のことは。おまえはまだ若いんだから、俺がいなくなってからのことを考えろ」 すなわち、本作において1番大切な点は病気の恐さを身を持って知ってほしいことではない。 それは2番目に大切な点だと思う。 いたわり合い慈しみ合うことのできる人がいることの喜びだと思う。 荻原さんのシナリオは寸分の狂いもなくラストへと導かれて行く。 ラストシーンがいつまでも脳裡に焼き付き、心に小春日和をもたらせてくれた。 私は主人公に代わって、奥さんに強く感謝したい気持ちで本を閉じたのであるがみなさんはどうであろうか・・・ 病気は深刻であるが、“主人公は幸せものだ”と声を大にして叫びたいなと思う。 評価8点 2004年106冊目 ...
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