『真夜中の五分前 sideA&B』 本多孝好 (新潮社) - 2004年11月14日(日)
その透明感溢れる文章で読者を虜にしてくれる本多さんの最新刊である。 寡作な作家なので一字一字味わい深く読んでみた。 小気味よい会話分が主体なのであっという間に読み終えれますね(残念) 主人公の“僕”は過去の恋愛を引きずって生きている26才の男性で広告会社の社員である。 彼の性格はどういったらいいのだろう? 率直な所、少し人生を徘徊し過ぎてるのかなという印象を受けた。 男性読者の私は別にどうでもいいが、女性読者は主人公にウットリするだろうか? 繊細というより小心物かつ無頓着なようにも受け取れる。 そのあたりもう少し本多さんも考えて書いて欲しかったな。 対して女性の2人(かすみ&ゆかり)は上手く描けている。 双子のモチーフも当然だが女性だから成り立つ話である。 しかしながらロマンティックさにはSide-Aのラストを覗いては欠けるように感じられた。 読者は本多さんにロマンティックさを求めてはいけないのであろう。 特筆すべきは、過去の佳作にも垣間見られた脇役達の描写の見事さである。 例えば、年上の女上司小金井さん、転職して高額の給料を払ってくれる野毛さん、Side-Bで登場する高齢の渋谷のマスターとバーテンなど・・・ とても人間臭いのである。 全体的には“喪失からの再生”がテーマなんだけど、ちょっと中途半端な気がする。 恋愛小説としたら物足りない。 Side‐Bの帯に“愛したのは誰?”とあるがはたしてこの作品を読むにあたりそのことに集中し関心を持って読まれてる方って少ないのじゃないかな・・・ そのあたりが微妙なところであります。 でももう少しグローバルにこの作品を捉えたら(例えば再生小説・青春小説)評価が高くなるのかもしれないな。 2分冊になってる点も賛否両論ありそうだ。 確かに読者の負担は大きい(笑) でもAとBのあいだに2年の月日が流れており、主人公の職も変わり愛していた人も亡くなる。 装丁も素敵なんでまあ仕方ないかなとは思った。 少し辛口に書いたが本多さん特有の人に優しい文章は健在である。 濃密な恋愛小説は苦手な人にはオススメします。 文章の上手さで勝負出来る稀有な作家であることに異論はありません。 本多さんって読後“読者の想像力にその評価が委ねられてる”と言っても過言ではないかなと思うのは私だけであろうか・・・ 読者も感性を研ぎ澄まして読まなければならない。 “自分の居場所”について少しでも考え直すことがあれば収穫があったと言えるであろう。 評価7点 2004年102,103冊目 ...
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