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『いとしのヒナゴン』 重松清 (文藝春秋) - 2004年11月07日(日)

いとしのヒナゴン
重松清著出版社 文芸春秋発売日 2004.10価格  ¥ 1,800(¥ 1,714)ISBN  4163234004
30年ぶりに現れた謎の生物ヒナゴン。役場の類人猿課に配属された信子は、その存在を次第に信じるように…。市町村合併問題、町長選をめぐって、ヒナゴン騒動はヒートアップ!『オール読物』掲載を単行本化。 [bk1の内容紹介]
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重松清さんの最新刊は来春井川遙・伊原剛志主演で映画化されるファンタジー作品である。

ファンタジー作品といえどもテーマは地方自治体合併問題とふるさとのあり方。
ただ、文章の滑らかさや登場人物のバラエティさは他の作品とは違ったテイストに仕上がっている。

“重松節”から“重松ワールド”へ(この違いはかなりの重松作品を読まれてる方にはわかっていただけるであろう)、後年転機となった作品だと語り継がれそうな作品といえそうです。

従来の重松さんの重いイメージを払拭する作品である。
幅広い読者層をターゲットとして意図的に書かれていると思う。

主人公2人(といって良いだろう)の浮き彫りの仕方が見事である。
2人とは物語の語り手で少し酒癖の悪い信子(25歳で比奈町出身)と、超個性的なイッちゃん(40歳で比奈町長)の2人である。

イッちゃんのキャラに心和まされた人も多いことであろう。
これからの日本を背負って立つ世代(25歳)と、人生の折り返し地点に差し掛かった世代(40歳)との両方を巧くコントラストすることによって、読者に今の日本人にとって何が大切なのかを問いかけてくれます。
脇役陣も豊富である。
イッちゃんの幼なじみのドベ、ナバスケ、カツ、信子の同級生のジュンペと西野、あるいは雑誌記者の坂本など・・・
過去のエピソード作りや後半の展開なんかはまるで浅田次郎さんの作品を読んでいるのかと錯覚してしまった。

架空の動物ヒナゴンを登場させることによって、従来の重松作品にありがちな最後にふっと前向きにさせてくれる構成じゃなくて、物語全体をハートウォーミングな世界で構成しているから万人受けしやすい作品に仕上がったといえるであろう。

といっても全く身につまされる話がないわけではない。
テーマとなっている地方自治体の合併吸収問題については登場する比奈町が直面している問題である為にリアルに描かれている。
比奈町は合併される側であるから特に辛い立場である。

きっと地方に住まれてる方や地方から都会へ出てきてる人は、自分のふるさとについてもう1度よく考える機会を提供させてくれている。
逆にふるさとの持たれてない方は自分の身の回りの人に対しての“つながり”・“接し方”・“結束”について少しでも見つめなおす機会を提供させてくれている。
重松作品に接することイコール“読者にとって格好の人生勉強の機会”であると再認識した。

物語が終わって、ふるさとに居続ける物もいればふるさとを離れるものもいる。
しかし共通している点はふるさとをこよなく愛している点である。

私が力説したい点は、本作は重松作品の中ではもっともエンターテイメント性の高い作品に仕上がっているという点である。
本当に読みやすい。
従来の作品のように涙するような話ではないが、楽しく読める点ではみなさんにオススメしたく思う。
はたしてヒナゴンは現れるであろうか?
ワクワクしながらページをめくって欲しい。

評価9点 オススメ

2004年100冊目



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