『おいしい水』 盛田隆二 (光文社) - 2004年10月31日(日)
凄く現代的な小説だ。 掲載雑誌がリアルさを前面に押し出した(?)“女性自身”だというのも頷ける内容である。 30代の女性向けの“人生の提案書”のような作品と言ったらいいのかもしれない。 盛田さんの特徴である“女性作家顔負けの繊細な心理描写”が心地よい。 内容的には価値観が多様化している昨今、結婚生活・近所づきあいなど本当に日常的なことを書き並べている。 そのリアルさはきっと読者の身のまわりの人に登場人物ひとりひとりを当てはめることができるであろう(笑) 主人公の弥生はどちらかと言えば良妻賢母的なキャラとして登場している点が読者の共感を呼ぶ。 彼女のいい意味での平凡さが現代に生きる女性たちの不安を代弁している。 夫である大樹との夫婦生活に悩みパートとして働きに出る彼女を声援しながら読み進めた読者は多いはずである。 私が弥生の親だったら間違いなく離婚しなさいって言ってるでしょう(笑) 対照的に現実の世界でも何人かに一人かならずいる尻軽でヒステリーな女千鶴。 どうしても篠田節子さんの『女たちのジハード』の紀子とオーバーラップしてしまう。 でも千鶴みたいなタイプを好きな男性って本当に多いのが現状である。 いわば弥生と千鶴とのコントラストが本作の一番の読ませどころである。 結婚しても昔のように恋をしたい。ときめく気持ちを忘れたくない。女ならだれでもそんな思いを抱いている。でも、普通は憧れや興味だけに終わるものだ。弥生はそう思っていた。だから、自分の浮気を平然と告白する千鶴には違和感をおぼえた。 男性読者の私は少し“高見の見物”的で面白かった、女性読者特に30代の女性読者が読まれたら他人事ではないのであろう。 少しでも不安を抱えているあなたは本作を読まれることによってその気持ちが緩和されることだと思う。 逆にこんな人もいるんだと笑って読み流せる人って本当に幸せなんだろうね。 少し皮肉な意見かもしれないが、これから結婚される方は読まれたら結婚って本当に希望のないものかと思うかもしれない。 しかしそれは間違いである。 すべてあなた次第なのであるから・・・ 盛田さんはきっとそれを読者に伝えたかったのだろう。 千鶴の人生(少なくとも本書を閉じる段階においては)ハッピーエンドで終わらせなかったのはその証である。 個人的には弥生の心の揺れに大いに共感出来た。 少し結婚制度について根本的に見直す必要があるのかもしれない。 これからの人生、全部予想できたの。嫌なことや悲しいことが、これからきっとたくさんあるんだろうけど、でもわたしは目をつぶって、このままずっと電車に揺られていくんだろうって、そう思ってた。電車から飛び降りることなんて考えたこともなかったけど、でも、もしかしたら自分にはほかの人生があるんじゃないか、いまから別の電車に飛び乗っても、やりなおしがきくんじゃないかって・・・・。そんな勇気もないのにね はたしてあなたは“おいしい水”を飲むことができるであろうか? 飲むためにはまず本書を手にとって“パスポート”を手に入れることから始めて欲しい。 評価8点 2004年98冊目 ...
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