『海のふた』 よしもとばなな (ロッキング・オン) - 2004年10月26日(火)
版画家名嘉睦稔とのコラボレート作品で讀賣新聞に連載されていたものらしい。 海っていうのは人間の陽と陰の象徴みたいである。 ある時は開放感の表れであって、ある時は孤独感の象徴。 よしもとさんの作品ってその時の読者の気持ちを代弁してるような気がするのだが、本作はやはり少し落ち込んだ時に読むと作中のカキ氷のように口の中に清涼感が広がり読者の心を癒せることは間違いないであろう。 それにしても丁寧に書かれた作品である。 あとがきにもあるように作者の思いいれも強く感じ取れた。 ただ、美的感覚が欠けてる私には版画の素晴らしさを感じ取れなかったのが残念だ。 逆に感じ取れる方にとったら文字だけの小説で感じ取られる部分よりも数段感情移入できるんじゃないかなと思う。 いずれにしても、まりとはじめのひと夏の出会いがやがて“熱き友情”と言う固い絆で強固に結ばれていく過程は充分楽しめたことは記しておきたい。 あと“故郷”というものを持たれている読者はきっと自分の故郷と比較しつつページをめくったことであろう。 日本って四季があるから“故郷”ってより特別な物として感じられるのでしょうね。 私自身、あまりばななさんの作品は読んでないのであるが、かつてのヒット作品よりは前向きな作品が目立ったるような気がする。 時代の移り変わりが原因であろうか? それともやはりばななさん自身も子供が出来てから変化してるのかな? 不景気の続く現在においては前向きさが心地よい。 はじめちゃんの祖母の遺産相続なんかは現代社会への痛烈な批判であると感じ取れた。 心残りはやはり真夏に読むべきであったかな(笑) そう、澄み切った海を見つめカキ氷を食べながら・・・ 寒い時に読めば寂しさが助長されるかもしれません。 それはばななさんの作品のメッセージ色の強さの証である。 本作は自分の人生に少し重荷を感じた人には恰好の処方箋となることは間違いない佳作である。 明日を見据えて書かれている点は高く評価したく思う。読書前より“心のふた”が少しだけれど開いたような気がするのは気のせいだろうか? ここからの帰り道には、もうはじめちゃんはいないのだ。今夜、私はひとりでTVを観るのか。 評価8点 2004年96冊目 ...
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