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『そのときは彼によろしく』 市川拓司 (小学館) - 2004年10月22日(金)

そのときは彼によろしく
そのときは彼によろしく
市川 拓司


電車はどんどんとスピードを上げ、ぼくをこの町の重力圏から放り出そうとしていた。花梨はもう表情も分からないくらい遠くになっていた。火星に向かう宇宙飛行士も、きっとこんなふうに地球のことを眺めるのだろう。この気持ちは、ぼくらにしか分からない。

市川さんの最新作は今までの恋愛や親子愛を深く描いた作品と少し異なったものとなっている。
恋愛のみならず友情や人生における夢を描き切った点に作者の並々ならぬ意気込みを感じた。
より幅広い年齢層の方から支持されるであろう。

彼の小説を読んでいる時ってどう例えたらいいのだろう?
ちょうど、心臓がいつもより速く動くのを感じるのである。
特にタイトルのネーミングの由来ともなっている、主人公智史の父親の存在感が圧倒的である。
子を持つ読者が読まれたらきっと共感していただけるであろう。

ちなみに私は2回読みました。
過去の作品より奥深くなった証拠であろうか?
いろんなテーマがてんこ盛りなんで、1回では上手く消化し切れなかったのである(笑)
1回目より2回目の方がより心が癒されたことを付け加えておきたい。
いや、学び取るべき点が多くなったと言う方が適切であろうか・・・

市川さんの作品に出てくる男性主人公っておしなべて恋愛経験に乏しいというか奥手で繊細である。
誰もが薄らいでいく初恋の時の淡い気持ち。
はたしてあなたは智史花梨になりきれるだろうか?

当たり前のことであるが、小説は作者次第でどのようにでも結末をつけれる。
そういう意味合いにおいてはたかがフィクションなのかもしれない。
しかしながら読者の人生の良きナビゲーターとなることは間違いない。

読者は心地よく市川さんの美しい文章に翻弄されてゆく。
まさに至福の境地である。
少し自分の人生を否定していないだろうか?
自分自身への戒めである。
人生は小説以上にもっといろいろであることを私たち読者はわかっているから・・・
余韻に浸りつつも少しは前向きになれたあなたは本作が座右の書となった証である。

感動的な本というよりも感銘を受けた本といえるのかもしれない。
とうとうひとつステージが上がったな。率直な気持ちである・・・

市川さんのインタビューはこちら

評価9点 オススメ

2004年95冊目


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