『夜空のむこう』 香納諒一 (集英社) - 2004年10月16日(土)
香納諒一さんの作品は長年読みたいと思っていたが、どうしても手につかずそのままになっていたのであるが、今回本作を読んであらためて作家としての資質の高さに驚いた。 少し敬遠していたのはハードボイルド作家というイメージが強かったためであるが、本作にそのテイストはほとんどない。 どちらかといえば、力強さというより繊細さが目立った作品である。 少し固定観念を変えなければいけないような気がする。 本作は少し古い表現かもしれないが“青春グラフティ”といった感じの作品となっている。 雑誌に3年以上をかけて連載されてたものの単行本化のために、香納さんの思いいれも強いものであると容易に想像出来る。 青春と言っても登場人物はみな30歳前後。 連作短編ならではの特徴が表れており、少しづつ人生の“転機”を迎え変化をしていく登場人物たちに読者も一喜一憂しながら読書をしいられるのである。 ともかく“編集プロダクション”という、私たち読書好きの素人にはとっても羨ましい業界に携わる内輪ばなしが盛り沢山でいい勉強になること請け合い。 1番の共感どころはやはり巧く“世の中の厳しさ”と“夢を持ち続けることの大切さ”の間で懸命に生きる主人公たちを描いている点である。 あるものは命を落とし、あるものは強い失恋を余儀なくされる。 不幸にも見舞われるが、それぞれの人間模様の交錯が心地よいのである。 そう、読者が30歳ぐらいだったら自分の現在と比較したら良い。 30歳以下だったら未来の自分を想像するが良い。 30歳を超えてる方は過ぎ去った自分の過去と照らし合わせて読めばよい。 本作の魅力のひとつとしてやはり主人公篠原以外の登場人物の的確な描き方、とりわけ女性3人(佐智子・栄子・笙子)の描き方は三者三様素敵である。 読み終えた後、タイトルのネーミングと同一のSMAPの名曲のサビの部分をイメージした方も多いのだろう。 本作は表紙のすばらしさだけでなく本文もまさにエンディングのあとその部分が聴こえてきそうである。 登場人物がみな30歳ぐらいだからそれなりに爽やかさとほろずっぱさがミックスされて読者に程よい陶酔感をもたらせてくれた点は作者の高い力量の発揮である。 あと、作中に登場する“エイト”という飲み屋なんだが、こう言った店を仲間同志で行ける環境ってとっても羨ましく思った。 少し優柔不断だが信念を強く持っている人って魅力的である・・・私なりの主人公篠原公一の分析である。 あなたはいかに分析するであろうか? まずページを開くことが先決である。 男性が読んだら主人公シノさんになりきれる、女性が読めばシノさんに惚れるであろうと信じたい。 評価9点 オススメ 2004年94冊目 ...
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