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『ため息の時間』 唯川恵 (新潮文庫) - 2004年09月29日(水)

ため息の時間(新潮文庫)
唯川恵著出版社 新潮社発売日 2004.07価格  ¥ 500(¥ 476)ISBN  4101334277bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

唯川さんの作品だから女性が主人公だと当然の如く思われるだろうが、本作は男性が主人公の恋愛短編集である。

どの篇もほぼ“自業自得”的な男性が次々に登場。
唯川さんの“恋愛フルコース”が堪能出来る。
ひどい仕打ちを受ける男性主人公が滑稽と言えば滑稽だし、哀れとも捉えることが出来る。
やはり女性のしたたかさが随所に現れているのが唯川さんらしいかな。

個人的にはどの篇にも“別れ”が描かれているので、少ししんみりしてしまったような気もする。
出会いがあって、別れがある。だから、人生ってドラマティックだ。

どれか一篇を選べと言われたら最初の「口紅」かラストの「父が帰る日」を上げたい。
「口紅」は従来の唯川ワールドが炸裂しており女性の本性が剥き出しにされていて素晴らしい。
少し唯川節を引用しますね。
結婚するなら見合いだと最初から決めていた。遊ぶ女と結婚する女はまったく切り離して考えていた。結婚は生活だ。その中に甘っちょろい感傷など持ち込むつもりはさらさらなかった。
恋愛めいた関係を持つ女も何人かいたが、恋しい、と思う気持ちが消えた後の、あのとてつもなく鬱陶しい感覚を繰り返すくらいなら、最初からそんなものを感じない相手の方がよかった。女と妻はもともと種類の違う生き物だ。
女に妻を求めないと同様、妻に女を求めるつもりもない。男と女の多くがそれを間違えて、人生を面倒なものにしている。

対照的に「父が帰る日」は父と息子の三十年ぶりに対面する姿を描く名作である。
唯一恋愛小説のジャンルに入らない毛色の違った作品であるが、感動度は高い。
唯川さんの場合、文章が読みやすくて万人受けするのだから、恋愛以外の作品を書かれても面白いのかもしれない。

いずれにしても男性を主人公に据え、視点を変えることによってより唯川さんの作風が広がったとは確実に言えそうですね。

話自体はドロドロして少しひとりよがりに陥ってるきらいはあるのですが、男性が主人公の為に悲壮感は漂っているが悲惨さはないのである。
読後感はさっぱりしているような気がするので“息抜きの読書”には最適だと言えそうですね。
ちなみに私はあんまり“ため息”は出ませんでした(笑)

評価7点
2004年86冊目


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