『キッドナップ・ツアー』 角田光代 (新潮文庫) - 2004年09月23日(木)
重松清さんが文庫本解説を書かれてるので手にとってみた。 当の重松清さんが書いたらこんな話になるであろうと片隅において読み進めて行くと物語りは私の予想をはるかに違った結末を迎えた。 角田さんの本領発揮といえそうだ。 角田さんって少しさめた視点が特徴かな。 子どもならではの瑞々しい感性だけでなく、ありふれた現実ではなく心の奥底に潜んでいる本音をあぶり出しているところが魅力である。 しかしながら、大いなる感動を期待して読まれた方は少し肩透かしを喰らうかもしれない。 そういう意味においては常識を覆した斬新な作品であると言えそうだ。 夏休みに2ヶ月ぶりにあったお父さんに誘拐されあちこちに連れて行かれる小5のハルという女の子の視点から語られている。 お父さんの優柔不断さというかいい加減さに慣れていく過程がやはり読ませどころであろう。 ただ、少しというか敢えて曖昧模糊な設定というか展開と言えばそんな感じもする。 重松清さんが解説で書かれているのと同意見で、本作はジャンル的には児童文学のジャンルなんだろうが、大人にも読んでもらいたい作品である。 読者が大人であれば、それなりに読解力の必要とする作品であると思う。 作中で言葉では言えなかった大切な事、何をハルがお父さんに伝えることができたかを探り出す・・・ そう、勿論角田さんが読者に伝えたかったことでもある。 おとうさんの白い浴衣がかろうじて見えるほどの暗闇の中で、足を動かして泳ぎ、泳ぎつかれたら一本の棒みたいに海水に浮かび、私は自分が、おかあさんともおとうさんとも、だれともつながっていない子供のように思えた。 率直な気持ちとしていわゆる子供たち(児童と言われる年代の)が本作を読んでハルの気持ちを理解出来るなんて末恐ろしい時代なんだなあと認識した。 単なる“親子の絆”じゃなくって“人間としての自立”を促している(私はそう読み取ってます)点は素晴らしいのだが・・・ 少なくとも大人が読めば、“子供たちの大変さ”を体験出来るのであろう。 ちなみに本作は“産経児童出版文化賞フジテレビ賞”、と“路傍の石文学賞”を受賞されている。 以前『空中庭園』を読んで挫折した経験があるが今だったら読めそうな気もする。 否定的な面もあるが少なくとも角田さんの個性的な点は容認したつもりでいるから(笑) あと2〜3冊、小説を読んでみたい。 評価7点 2004年84冊目 ...
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