『十八の夏』 光原百合 (双葉文庫) - 2004年09月20日(月)
初めて読む作家の作品を手にした時っていつも緊張する。 期待はずれの時もあるが、逆に胸がすくような作品にめぐりあう時もあるからである。 本作なんかは後者の典型的な例といえよう。 本作は4編からなる花(朝顔、金木犀、ヘリオトープ、夾竹桃)をテーマとした短編集である。 連作というより内容的にはそれぞれが独立した短編集と言えよう。 表題作は日本推理作家協会短篇部門賞を受賞しているのをご存知の方も多いんじゃないかな。 最後の「イノセント・デイズ」以外はあんまりミステリー度は高くない。 4編ともそれぞれ異なったテイストの作品なんで作者の引き出しの多さを垣間見ることが出来、御買い得感が高いような気がするのは私だけであろうか・・・ しかしながら、どちらかと言えばほのぼの系でストーリー展開で読ませるのが持ち味な作家だと認識した方がよさそうである。 ラストの「イノセント・デイズ」なんかはちょっと踏み込みが強くて異色作と言えそうですね。 作風的には男性作家で言えば本多孝好さんに近いかなあと思っている。 どちらも文章が綺麗で心の機微を描くのが上手い。 そう言えばどちらも寡作なんですよね(笑) 光原さんも本多さん同様、文章に人柄が出ているって感じかな。 凄く読んでいて癒してくれるから・・・ 読者に対して気配りの出来る作家と言えそうですね。 どの作品も素晴らしいのであるが、個人的には2編目の「ささやかな奇跡」がお気に入りである。 亡くなった妻の実家近くに引越した父子が起こす題名通り、ささやかな奇跡のものがたりなのである。 とにかく息子の言動には泣けてくるのである。 やはり、女性作家ならではの繊細さが行き届いていると言わざるを得ない。 この作品に遭遇しただけでも“読んで良かった”と思えた。 私たちの日常においても、作中にあるようなちょっとした誤解から生じる思い違いってあるのでしょうね。 話の展開は読めるのであるがそれにしても胸がすく話でした。 重松清さんも脱帽物だな(笑) 全体的には花の色の如く色彩豊かな短編集だと形容したく思う。 きっとその色彩って魅力的な登場人物なのでしょうね。 3編目の「兄貴の純情」の“兄貴”はその際たるものであると言えよう。 ズバリ、文庫で買って蔵書にして何度も読み返したいと思う作品集だと声を大にして叫びたい。 光原さんがこの作品集を通して何を訴えたいかはあとがきを読めばわかります。 すごく共感したので引用させていただいてレビューを締め括りたく思う。 本書を手にとって下さった皆様にも心からの感謝を。楽しんでいただけたら、そしてできればほんの少しでも“人生も満更悪くない”と思っていただけたとしたら、これ以上の幸せはありません。 評価9点 オススメ 2004年83冊目 ...
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