『雪沼とその周辺』 堀江敏幸 新潮社 - 2004年09月11日(土)
芥川賞作家・堀江敏幸さんの作品は初めて読んでみたが心地よく作品に入り込めた。 どちらかと言うと個性的と言うか風変わりな純文学作品がトレンド状態にある昨今、正統派作品で勝負し読者のハートを射止める筆力は見事である。 純文学の王道を突き進んで行って欲しい作家である。 物語の舞台は雪沼と言う名の町。 イメージ的には北陸・東北地方の山あいの小さな町という感じである。 街というより町という言葉が似つかわしい。 本作も雪の降る日に読めば感慨ひとしおであろうな。 内容的には全七編からなる雪沼の町に住み人々の物語。 主人公たちは中年から初老の方が大半である。 町のイメージどおりそれぞれの人生も平凡である。 本作は平凡ながらも精一杯生きてきた人々の分岐点となる過去や現在を綴った秀作である。 堀江氏が丹念に描く人々は誠実であり必然的に読者の共感を呼ぶ。 とりわけ最初に登場するボーリング場のオーナーの話「スタンス・ドット」が特に印象的であるが、どの編もエンターテイメント作品では味わえない寂寥感が漂っている。 堀江氏は本書を通して人生において“平凡に生きることの貴重さと難しさ”だけでなくその“喜び”を教えてくれている。 彼の存在感って、私たちが子供の頃、夏目漱石や太宰治を読んだ当時の懐かしい感覚に近い何かを感じさせてくれる。 きっと文壇において貴重な存在であり財産であろう。 残念ながらというか恥ずかしながら(笑)、純文学を読みなれていない自分をもっと叱咤激励したい気分で一杯である。 しかしながら雪沼と言う町のほんのわずかであるが輪郭を知ることが出来た喜びは大きな収穫である。 まだまだ人生経験が足りないかな・・・ そう感じざるを得ない奥の深い作品となっている。 普段薄っぺらい類の作品に慣れているとドシリと重く感じますね。 読者自身の人生経験を測るいいバロメーターとなる作品かもしれません。 最近本作が谷崎潤一郎賞を受賞された。 きっと読者の本作を読んだあと満足感が賞に結びついたのであろう。 心から祝福の言葉を贈りたく思う。 評価8点 2004年79冊目 (旧作・再読作品24冊目) ...
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