『約束』 石田衣良 角川書店 - 2004年08月12日(木)
前作『1ポンドの悲しみ』に引き続き精力的に短編集を刊行している石田衣良さんだが、本作においてまたまた新しい魅力を読者に披露してくれた。 どちらかと言えば、キャラクターで読ませる作家の典型(池袋ウエストゲートパークのマコトに代表される)だと認識していたが、本作では主題で読ませる切ないストーリーに終始、読者も作家の変化に対応して行かなければならないのであろうか。 7編からなる短編集であるが、どの作品もかけがえのないものをなくした登場人物がいかに再生していくかを描いたものである。 池袋ウエストゲートパークシリーズのように歯切れの良い文章は陰を潜めているが、逆に丹念に書かれた文章は読みやすく心地よく読者に受け入れられるであろう。 ここからは個人的な感想を書かせてもらいますね(笑) 正直、1編目で表題作でもある「約束」が素晴らしいのは認めるが、残りも同じパターンで展開してるのでやはり尻すぼみ感は拭えないのが気になったのである。 それと、帯の“絶対泣ける短編集”というのはいささかオーバーな気がする。 たとえば重松清さんの作品のように、登場人物(というより主人公と言った方がいいかな)に自分を投影出来るようなパターンの作風ではない。 それぞれの“かけがえのない人生”を切り取って読者に提供してくれているのではあるが・・・ やはり重松さんの作品に良く使われる、人生において避けて通れないものを題材に描いた方が実感が湧くのであろうか? 本作を読むと“こういう人生もあるんだなという気持ちと、上手くまとめて書かれてるなという気持ちが交錯”して複雑な気持ちであったことは否定できない。 もう少し深みが欲しいと思ったりしたのが正直な感想である。 果たして本当に苦しい時や悲しい時にこの作品を読んで共感・感動できるかな? ちょっと苦しいような気がする。 少なくとも私はそうである。 ストーリーに普遍性がありすぎて心に届かない。 いや、優しすぎて物足りなく感じたのかもしれない。 なぜなら“読者にはたまには突き放すことも必要である”と私は常日頃思っているからである。 石田氏には読者が“うまくまとまっている”という感想の言葉で片付けられて欲しくない。 もはや新人作家ではないのである。オリンピック期間中なので比喩として使わせてもらうが、金メダル(直木賞)受賞者なのである。 読者は銀メダルでは満足できない。ということを肝に命じて力作を書いていって欲しい。 少し辛口に書いたが、それは大きな石田氏への期待の表れでもある。 最後に褒めさせていただきたい。 それは“作品コンセプト”の確かさである。 多少なりとも自分の人生を振り返り、明日へのステップとしたいなと思う。 石田さんに素直に感謝したい。 本作を読まれて石田さんのファンになられた方、もっと他作も読んで欲しい。 評価8点 2004年74冊目 (新作53冊目) ...
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