『蓬莱橋にて』 諸田玲子 祥伝社文庫 - 2004年08月15日(日)
久々に諸田さんの作品を読んだが、やはり女性の情念を描くのが秀逸である。 著作リストはこちら 諸田先生公式サイトはこちら この場を借りて少し諸田玲子さんの作風について述べたい。 ライバルである宇江佐真理さんはどちらかというとキャラクターの魅力で文章を紡いでいる。 集約すると従来のパターンの時代小説に人情語をより深く感動的に読者に提供してくれているのが特徴である。 女性登場人物が啖呵を切ったりするシーンも良くあるのであるが、基本的には“かわいく生きる女”を描いている。 一方、諸田さんは多彩なジャンルで対抗している。 新しいタイプの時代小説の書き手である。 時代背景が江戸(平安もあります)時代であって、内容的には現代物、もっと言えば翻訳物に近い感覚で読める。 いわば、普段時代小説はちょっと苦手であるという固定観念を持たれてる方にも是非手にとって欲しい作家なのである。 時代小説という大きなカテゴリー分類じゃなくに、時代サスペンスや時代ミステリーという分類分けで読みべき作家だと言えよう。(現代物のサスペンスやミステリー好きの方も1冊挑戦して欲しい。) 彼女は宇江佐さんと違って“強く生きる女”を描きたいのだろうなと私は思っている。 三人ははぐれ者だ。出会ったばかり、素性もろくに知らない。だが、そんなことはどうでもいいような気がした。おぎゃあと生まれてから死ぬまで、だれもが運任せの渡世をつづけてゆくのだ。(はぐれ者指南より) さて、本作であるが諸田玲子入門編としては恰好の1冊となっている。 全8話からなる短編集であるが、舞台はいずれも東海道の宿場。 静岡出身の諸田さんにとっては思い入れの強くて題材にしやすい土地柄なんだろう。 いきなり冒頭の「反逆児」にて由比正雪が登場して驚いたが、その後もバラエティに富んだ人物が続々と登場します。 読者は目を離せないのである・・・ 本作の話って本当に哀しい話が多い。 運命に翻弄されつつも、真っ直ぐに生き貫いている主人公達を活写している。 読者は主人公が不器用であればあるほど心が動かされる。 読者の心情を精通している諸田さん、心憎いばかりである(笑) 私は「深情け」が一番儚かったな。 はたしてあなたはどの作品の主人公を一番儚く感じただろうか? じっくり語り合いたい衝動に駆られる作品集である。 評価8点 2004年75冊目 (旧作・再読作品19冊目) ...
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