『ふにゅう』 川端裕人 新潮社 - 2004年08月10日(火)
帯の文章を重松清さんが書かれてるので手にとって見た。 初読み作家であるがなかなか良い小説を書くなあというのが率直な感想である。 タイトルの“ふにゅう”は母乳じゃなく“父乳”から取っている。 それぞれが独立した5編からなる短編集であるが、共通したテーマは父親の視点から出産や子育てを捉えてる点である。 ここに登場する男性って本当に優しい。 きっと少子化した現代において、登場人物って女性が読まれたらアットホームな雰囲気で理想の男性像かもしれないな。 それにしても世の中変わったと言わざるをえない。 10年前だったら小説の題材にもならなかっただろう。 ところどころにゾクッとさせられる表現が心を捉えた。 たとえば2編目の「デリパニ」。 ニューヨークに住んでいて、分娩に立ち会う男の心情を描いた作品であるが、ちょうど、テロ事件の時期が背景となっている作品である、少し引用しますね。 それと、ベイビーに対して、かなり後ろめたい気持ちがある。おれたちは、セックスして気持ちよくなって、で、ベイビーをつくっちまったわけだが、本当にそれで良かったのか。こんな時代に生まれてくる子供たちに、しあわせな未来は待っているのだろうか。えらく無責任なことをしているような気がして、「誕生の瞬間」には相当複雑な気持ちになるのではないかと思うんだ。 全体を通して、男であるがゆえにネックとなる点をうまくとらえつつも、子供はもちろんのこと妻に対する愛情を垣間見ることが出来た点が見事である。 こういうテーマの作品って性別によって評価が分かれるのが通常であるが、本作に関しては、男女問わず受け入れられる事だと思う。 ちょっとほろずっぱくもリアルな描写が堪能できた1冊だと言えそうですね。 これを機会に夫婦の役割分担はもちろんのこと、家族のあり方についてもう1度考え直した方がいいのかもしれない。 評価8点 2004年73冊目 (新作52冊目) ...
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