『グロテスク』 桐野夏生 文藝春秋 - 2004年05月06日(木)
桐野夏生の小説は読者を徹底的に支配する。 本作はまさに“暗黒版『女たちのジハード』”である。 登場人物は私、ユリコ、和恵、ミツルの4人が中心。 ユリコと和恵の2人は殺されるのだが、本作においては誰に殺されたのかなどの興味を持って読まれることを前提としていない。 女に生まれての容姿による人生の悲喜こもごも・・・ 前半は私とユリコの姉妹間の確執が中心で興味深い。 特に、高校時代のエピソードは読者(とりわけ女性)にはリアルだと思う。 男性読者が読むと理解し辛い点もあるのだが、退廃的ではあるが、“女性の本音”だと思って割り切って読んだ。 やっぱり1番悲惨でその変貌振りが目立ってグロテスクなのは和恵であろう。 昼は一流企業のOLで晩は娼婦と言うモデルとなった「東電OL殺人事件」の主人公も和恵に当てはめることが出来る。 彼女の精神の分裂ぶりが後半の1番の読ませどころかな。 果たして娼婦に成り下がった登場人物たちは幸せであったのだろうか? “努力”の象徴として勉学に励んで一流企業に就職した和恵の現実は儚すぎる。 女性の奥に潜む“真の孤独感”を描いてるとともに、先天的なもの(ユリコに象徴される)と後天的なもの(若い頃の和恵に象徴される)とのどちらを優先すべきであるかが不明瞭な“日本の社会のどうしようも出来ない歪み”がよく現れてると思う。 桐野さんの凄さはもちろん、小説として許される限りの脚色をほどこして読者を楽しませてくれる。 特に最後のシーンは意外だったなあ。 最後に私のとった行動っていったいどういう意図だったのでしょうね。 あんなに憎んでた妹に対するやはり嫉妬と羨望の気持ちだったのかな。 百合雄に対する接し方なんかは姉妹愛の表れと受け取るのは少し曲解だろうか? この作品はある意味“人生模索小説”である。 桐野さんは“読者の明日からの人生で壁にぶち当たった時や何か挫折しそうな時、この物語が何かの教訓となれば”と書かれたのであろう。 とっても重くて暗いけど、いつまでもどっぷりと読者の心に根ざす作品であると確信している。 それとともに読まれた女性の方に是非誰の人生が1番幸せだと思うか?聞いてみたいと思う。 評価9点。オススメ 2004年43冊目 (旧作・再読作品12冊目) ...
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