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『1ポンドの悲しみ』 石田衣良 集英社 - 2004年03月12日(金)

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石田衣良さんの新刊は『スローグッドバイ』の続編とも言うべき恋愛短編集です。
前作と違って今回は30代の男女(女性中心ですが)にスポットライトを当てています。

社会的にも人生の経験的にも30代となるとグーンと落ち着いている。
何と言っても“背負って生きてるものが大きくなっている点”は否定できない。
だから恋愛にも“制約”がついてまわる。
読者にも緊張感が走るのである。

失われた20代の頃のときめきを追い求めながらも現実との間を健気に生きている各篇の主人公たちには頭が下がる思いがした。

ただ、若い読者(20代前半ぐらいまで)が読まれたらやはり少しわかり辛いかもしれませんね。

しかしながら前作よりずっと作品としての奥の深さは増しているのは事実である。
まさに“バラエティに富んだ恋愛小説の傑作”と言って良いんじゃないかな。
1番読んで共感が得られるのは、やはり“30代の女性”なのは間違いないでしょう。
自分の過去や現在と対比しながら読めることほど読者にとっての強い味方はいない。
でも決して読み終えて悲観すべき内容じゃないところが石田作品の安心感と言えるんでしょうね(笑)

本作を読んで石田さんの最大のセールスポイントを発見したような気がするので記したい。(いまさらとファンの方にしかられそうですが・・・)
それはある人にとっては“リアルな話”、ある人にとっては“お伽話”・・・でもどちらであっても面白さには変わりない点である。

ひと言で言えば“他の作家よりもストーリーにとっても普遍性がある”ということだと思う。



全10編からなるが特に印象的だったのは下記の2編です。
「十一月のつぼみ」
結婚をして平凡なる生活をしている主婦英恵の胸のときめきと抑制心を見事に描いている秀作です。
石田さんの話のオチのつけ方は素晴らしの一語に尽きる。

「秋の終わりの二週間」
15歳年上の男と結婚した伊沙子。夫とは二週間違いの誕生日だがその時期の優しさに心をときめかせてるシーンが印象的である。
本当の幸せに浸って生きている姿に読者は感銘せずにいられない。


本作における10通りのディナーを平らげた読者は、“人生における温かいエール”というデザートがついている事にも気づくはずである。
その“エール”という名のデザートは1ポンドよりずっと重いのは言うまでもない。

評価8点。    
2004年27冊目 (新作20冊目)


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