『卒業』 重松清 新潮社 - 2004年02月22日(日)
《新潮社 作家自作を語る》 重松さんの“集大成的な作品集”である。 現時点での最高傑作であると信じたい。 4編からなる“死”をモチーフとした中編集である。 主人公はみな40才前後。 それだけ誰もが人生の折り返し地点を過ぎ背負ってるものも大きいことの証拠かな。 前半の2編ではこれから受け入れなければならない親の死を・・・ 後半の2編では遠い過去の親友と母親の死を・・・ 従来の重松さんの作品は“身につまされる”話であったが、本作でのテーマは“人生において避けられない”テーマである。 そこに本作のスケールの大きさと重松さんの成長が窺い知れる。 読み終えた人は本当のテーマは“前向きな人生”であることに気づくはずだ。 最近涙腺が弱くなった。 重松さんの紡ぎだす4編の物語に心を震撼させられた方は涙なしには本を閉じれないはずだ。 涙を流すことによって“希望”と“勇気”が味方についたような気がする。 明日からの人生を“少しでも恥ずかしくない人生を送りたい”と肝に銘じたい。 “テーマは重いけど重松作品を読むと読者の肩の荷が軽くなる” 重松作品の最大の魅力である。 ★まゆみのマーチ 主人公は40才の幸司。妻と中学生の息子との3人家族で東京在住。 母が死の直前のために実家に帰る。幸司の妹は“まゆみ”という名で、神戸に住んでいる。 まゆみは小学生の頃、ある出来事で登校拒否していた。現在の幸司の息子の亮介も似た境遇なのでありし日の母親の姿勢と、自分の亮介に対する接し方とをどうしても比べてしまうのであった・・・ なんといっても死の直前の母親の病室内で、まゆみの小学生の時のエピソードを回想するシーンが胸を打つ。親になってこそわかる子に対する深いまなざしを上手く描写しています。是非「まゆみのマーチ」読まれた方のお子さんにも歌ってあげて欲しいです。(その時は“○○○のマーチ”となりますが(^。^)) 主人公の子供の時も大人になった今も、少し後悔をまじえて語ってるのですんなりと受け入れられました。現実に少しでも不安な問題のある方が読まれたらきっと多少なりとも心を癒してくれる作品だと思います。 主人公の年代層(40歳)にとって避けられない子供のしつけや教育問題、あるいは親の介護。とっても考えさせられます。特に子供の数が少なくなってきている昨今、いつも身近に病床の親のそばに子供が居てあげる事が出来ない状況が多いので、とってもリアルな話として読み取れるでしょう。 親の子に対する愛情を強く認識した主人公、人間的にも成長のあとが覗えます。これから自分の子供に対して自分が受けた以上に愛情を注ぐことが出来るでしょう。最後が前向きなんでとっても微笑ましく感じましたよ。 ★あおげば尊し 主人公は40才。小学校の先生をしている。ガンに冒され死を直前に控えた父は元高校教師。厳しさをモットーとしすぎた為に、教え子は誰もお見舞いに来ない。その父を自宅で引き取ることとなるのだが・・・ またまた心に響く作品である。なんといっても主人公の教え子の康弘君がいい。少し複雑な家庭環境であることが後半わかってくるが、この少年がある意味で物事をまっすぐに捉えてるところが主人公と共通している点が見逃せない。 重松さんの主人公はおおむね少し気が弱くてお人よしだ。一方で頑固で情が深い面もある。エンディングでいつも一歩成長した姿を見せてくれる。そこがある時は微笑ましくある時は涙を誘う。 小説を通してリアルに読者に問題を提起してくれる。今回は“親の死”によって“親を看取る”という誰もが経験しなければいけないシチュエーションを用意してくれた。 主人公は父の病状を自分の生徒たちに見せてあげます。確かに教育者としては間違ってるかもしれないという気持ちを持ちながらも、父の人生自体を正当化します。最後の親孝行といったらいいのでしょうねきっと・・・ でも残ったのは康弘君だけでした。 父の最後の教え子である康弘君、願わくばずっと『あおげば尊し』を歌ってほしいものだ。 ★卒業 主人公の渡辺は40才で課長代理。ある日突然、亜弥という中学生が会社に訪れる。彼女の亡き父親はかつての親友で彼女が生まれる前に自殺をした伊藤であった・・・ 古くからの重松ファンは感慨深い作品かもしれない。 重松さんも本作の中で最も思い入れの強い作品であろう。 文庫本の『ナイフ』のあとがきに書いているS君のことがオーバーラップされた方も多いことだと思う。 悲しみを背負いつつ生きて行く亜弥ちゃんの気持ちと、過去の親友を知りつつも自分の身の周りの変化(リストラ)に戸惑う主人公の葛藤。 あるいは現在の父親である野口さんの心の葛藤など・・・ 途中でイジメにあってる亜弥ちゃんと春口とカラオケを楽しんでいる若い女の子、対象的なようなんですが紙一重かもしれません、実際は・・・ きっと亜弥ちゃんも幸せだし、亡き父親の伊藤も親友に恵まれて天国で喜んでいる事でしょう。 読ませどころが多いというか本当に問題提議の出来ている傑作短編だと言えるでしょう。 私の拙い文章では伝えきれないのが非常に残念である。 ★追伸 個人的には本作において最も感動的な話である。 主人公の敬一は現在40才で作家を営む。6才の時に母親がガンで亡くなった。父親は数年後に再婚し新しい母親が出来たのであるが、敬一の心の中では母親はひとりしかいない。いつも母親が病院で書いた日記を心の糧として生きていたのである・・・ とにかく敬一とハルさんの少年時代からの“確執”がいかに“和解”し“心を開きあう”かを見事に紡いでいる。 本作は血のつながりの重要性を謳っているのではない。むしろ、私たちが忘れている“本当の心の触れあい”の大事さを教えてくれている。 敬一の妻の和美の“出来た妻ぶり”も印象的だった。 評価10点。超オススメ作品! 2004年20冊目 (新作15冊目) ...
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