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『涙堂 琴女癸酉日記』 宇江佐真理 講談社 - 2002年12月12日(木)

元同心の妻・琴が、八丁堀を離れ、浮世絵師となった次男賀太郎と一緒に日本橋通油町に住み始めるところからの日々を描く連作短編集。

宇江佐さんの小説の感想を書くのは本当にむずかしい。彼女の描く情感溢れる小説は、感想を読んでもらうよりはまず作品を読んで貰いたい。
この作品は宇江佐さんの作品の中ではほのぼのとしたテイストの作品となっている。
琴が少し平凡(?)なキャラの為に物足りなさも前半感じた感は否めない。
しかしながら、最終章の「涙堂」はやはりせつなくていい余韻を残す終わり方となっている。
元夫の死の真相を探っていく捕物帖的要素と、琴の周りの人々の日々の生活を描く市井小説的な要素が混じった作品であるが、少し前者の要素が弱いような気がした。

個人的には、伊十の最初の登場の仕方からして、ラストは全然想像すら出来ませんでした。琴が伊十を看取るシーンは最もこの物語で印象的です。
あと賀太郎の恋模様も、琴の親心もふまえて上手く描き出してる。
はじめは子供の中で出来の悪いように描かれてる賀太郎が、恋をして成長して行く姿が微笑ましく感じられます。
女性が読まれたらきっと“女性としての愛らしさ溢れる”主人公の琴の行き方に共感できるんじゃないかなあと強く思いました。読後感のいい作品です。

評価8点。


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