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その腕で抱いて下さい、強く強く。
自己満足でいいと思っていたのに、他人から認められたい欲求が昂まって、そういう自分が嫌で、哀しくなる。割り切ってしまいたいと思うのに、それが出来ない。どうして己自身を見つめられないのか。 欲望に弱くて、痛みに弱くて、どうしようもない己の姿。 「何も変えようとしない」から己は己を否定する。突き放すことが出来なくて、傷を舐めながら、涙を流しながら、それでも固定された意識の中に留まっている。
数字の移り変わりを嬉しいと思ったり、そんなものに一喜一憂する自分を情けなく思ったりする。その温さが己自身であることを認めざるを得ないけれど、無いものねだりと言われようが、己の中に強さだとか傷つかない心とかが欲しい。
少年は卵の中だ。己も卵の中に居るのだろうか。育ちすぎて巧く殻を破れない。押し込められたまま、卵の中で死んでいくのだろうか。 否、「押し込められた」のではない。殻を破ろうとさえしなかったのだから、それは当然の結果なのだ。殻を破らなかったのは己自身。「何もしない」という選択。
卵の中の少年。その白い肌から血の気が失せていく。刻一刻と、その躰が冷たく固くなっていく。凍りついた後ではもう手遅れだということに早く気付くがいい。 震えるほどの旋律で、何もかも壊してしまえばいい。
花迷宮/久世光彦/新潮文庫 1991 ISBN4-10-145622-4
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