2004年03月17日(水) |
壮絶な仕事(上村勝彦さんの本) |
今年1月に出版された「始まりはインドから」(上村勝彦)を読んでから、同じ著者の作品を少しずつ呼んでいます。というのも、「始まりはインドから」という本が、いわば著者「上村勝彦」さんの追悼出版の形をとっていて、奥様が「あとがき」を書いていて、上村さんは平成15年の1月に亡くなられたのでした。
上村さん最後の著書は「インド神話」でした。この本は「ちくま学芸文庫」から平成15年1月に出版されています。この本の「あとがき」は、平成14年10月に書かれています。そこから少し抜書きします。
「平成14年の1月から、拙訳「マハーバーラタ」(原典訳)が刊行され、11月にその第6巻が出る。この叙事詩の中には実に多くのヒンドゥー教の神々が登場するが、あまりにも膨大な書であるので、一々どのような神であるか解説する事ができなかった。そこで今、この「インド神話」を学芸文庫として出版することは、「マハーバーラタ」の原典訳を補うために大きな意義があると考える。・・・」「私は今、闘病生活を送っている。手術自体は無事すんだのだが、カテーテルを取る時に色々なトラブルが生じ、結局一度抜いた管を苦労して再び挿入し、三週間ほど待つ事になった。その間病院にずっといるのも気がめいるので、一時退院し、管を抜く日を自宅でひたすら待っている。その間に本書の初稿を呼んだ。・・・この書が出版される頃には、私の体調も良くなる事を期待している。」
さらに「あとがき追記」に、「その後カテーテルは無事に取れ、目下リハビリに励んでいる。マハーバーラタ第六巻も出版された。」と書かれています。この後、完成した本が1月8日に出版されました。著者上村さんは1月24日に亡くなったのでした。58歳だっとという事です。
上村さんの専門は「サンスクリット詩学」だそうですが、「始まりはインドから」を読んでみると、留学されたマドラスも、他のインドの土地も上村さんにはそれほど魅力的ではなかったみたいなのです。ただひたすら「サンスクリット文学」に没頭していたことが読み取れます。
「始まりはインドから」の本のカバーには、研究室の本棚をバックにした上村さんのカラー写真が載っています。ほんとうに人柄がそのまま現われている良い写真だと思います。マハーバーラタの最終巻の第7巻が出版されたのかどうか確認していません。このシリーズは「原典訳」なのです。とてつもなく大きな仕事を淡々と続けられた著者の「生き様」、家族の支えなど、色々考えさせてくれる本との出会いです。
なお、上村さんは「中村元さん」のお弟子さんといってもいいような方だということを知りました。「中村元」さん関連で、また素敵な人と出会うことができた感じがします。10年以上前、世田谷留学生会館に住んで、東大に通っていたタイ仏教僧の方と少し懇意になったのですが、出会いのきっかけ彼がサンスクリット単語を歩きながら勉強しているところに声をかけてからでした。彼の先生の先生が「中村元さん」だったのです。
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