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風太
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2003年06月27日(金)
「パパは奪還屋2」


ええっと。
オレは、今蛮ちゃんと一緒に『きりゅうど』の谷・・・えーっと名前なんだったかな。
忘れちゃったけど。
とにかく谷にいます。
ここには虫さんがいっぱいいて、時々人間みたいな虫さんもいるので、ちょっと虫取りアミではとれそうにありません。
蛮ちゃんに、どうしよう?と聞いたら、あんなの標本にしても不気味だからほっとけ。と言いました。
ほんとだ。
第一、そんなおっきな標本、オレつくれません。



そうこうしているうちに、オレたちはヘブンさんや赤屍さんたちと合流したんだけど、セミのおじさんに、なんと赤屍さんが切られてしまいました!
ど、どうしよう・・・!
蛮ちゃんは、なんでだか「へー」と感心してました。
「そういうこともあんだなぁ・・」
って、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないよ、赤屍さんが!
しかもオレたち、敵にぐるっと周りを囲まれて大ピンチなのです!
そしてさらには、オレ、まだ小さいままなんです。
戻れてないの!
だからね、まだずっと蛮ちゃんに抱っこされたままなんです。
降りると、危ねえ!って叱られちゃうから。


――そんな時。


「十兵衛、俊樹! 来てくれたのか・・!」
「もちろんだ、花月」
颯爽と現れた元『風雅』の二人に、カヅッちゃんも思わず笑顔なのです。
オレも嬉しい!
あっと言う間に、敵の虫さんたちを蹴散らしちゃった。
すごいのです!
「すごぉい、カッコよかったよー! 十兵衛も雨流も!」
でも、せっかくほめてあげたのに、二人とも、特に雨流はけげんそうなのです。
「花月、あれは・・・? 美堂が抱いてるあの小僧は何だ?」
「失礼だよ、俊樹。銀次さんに向かって!」
「あ・・・あれが雷帝・・?」
だから、もう雷帝じゃないってバ。
オレは、ゲットバッカーズの天野銀次だよ。
いい加減おぼえてよ、雨流。
それにしても、『神の記述』で前にたたかった時はそんなに思わなかったけど、十兵衛とのコンビは息もぴったりで、なんかたくさん強くなってる気がします。
あ、そうか。
わかった! きっと、アレのせいだ。
アレの。
「でも、雨流って強くなったよね!」
「いや・・ 雷帝、オレは」
だから雷帝じゃないよって。
「やっぱり、無敵の蛮ちゃんにちゅーvしてもらって血をもらったせいかなあ」
「う・・っ!」
「よかったねーv」
「・・・そ、それを言うな・・・雷帝・・」
「はい? だって、よかったでしょ。蛮ちゃんのちゅー」
あれ? どうして真っ青になるの?
オレ、ずっと雨流はいいなあって思ってたのに。
みんなの前で、蛮ちゃんにちゅーvしてもらえて。
・・・・あ、なんか暗くなっちゃいました。
どーん・・・って。
どうして?
そういえば、昔っから暗かったってカヅッちゃんが・・。
蛮ちゃんも、なんか頭抱えてますけど?
「銀次、やめろ・・。思い出すじゃねーか」
「美堂、貴様・・・・。思い出したら殺す・・!」
「コッチだって、思い出したくもねー暗い過去だっつーの!」
「なんで? ちゅーしたのが暗い過去なの?」
「なんでって。ヤローとちゅーして嬉しいかよ?」
「ち、ち、ちゅーって言うな!!」
「俊樹、真っ赤だよ・・」
「相変わらず、古風な男だ」
「筧! 貴様に言われたくはない!」
「まあまあ、二人とも」
十兵衛と雨流の間で、カヅッちゃんがたしなめてます。
オレは、そんなことより、蛮ちゃんの言ったことが気になるんだけど。

「ねえ、やなこと?」
「あん?」
「やなことなの、蛮ちゃんにとっては。オトコとちゅーって」
「気持ちよくはねえだろ?」
さらっと返事をかえされて、ちょっとオレ、しょぼーんなのです。
「じゃあ・・。じゃあ、オレといつもしてたのは? アレも気持ち悪かったの??」
「・・・・・・え」
「蛮ちゃん、そんな風に思ってたんだ・・・」
「ち、ちげーよ! テメエとすんのはそうじゃなくて」
「そうじゃなくて、何? 嫌々だったの、ねえ?」
「嫌々なわきゃねーだろが!」
「だったら、なぁに? でも本当は、気持ち悪いなーって思ってたりした?」
「だから、そーじゃなくてよ! テメエとすんのは、ちゃんと気持ちイイっての!!」



しーん・・・。



「・・・・いつも、ね。ほう、そうですか、いつもねえ・・・! いつもアナタは、こんないたいけな子供の銀次さんにそんな真似を・・!」
「え?え? ち、ちょっと待て、糸巻き! いたいけなって、たまたま今こんなガキになってるだけで、いつもはしっかり18のカラダで・・」
「なお悪い!!」

え? 悪くないよ、カヅッちゃん。
蛮ちゃん、気持ちよかったってv
よかったあ、蛮ちゃんもそう思っててくれてv
オレも、蛮ちゃんとちゅーするの大好きなんだもん。
ちゅっ・・vってだけしてくれんのも、ぶちゅううっvってしてくれんのも大好きなのです。
ところで、あれ?
カヅッちゃん、なんであんなに怒ってるの?
あ、紘出さないで! 
抱っこされてるオレまで、ぐるぐる巻きにされちゃったらどーすんの!

「・・・・・ま、銀次さんの手前・・。仕方なく堪えますが」
よかった、ほっ。
「つーか、糸巻き。なんでテメーがここにいるよ? 卑弥呼、助けに行ったんじゃねーのかよ?」
「卑弥呼さんなら、鏡クンが1人で助けたいそうですから。僕は、とにかく銀次さんが心配で心配で」
「あーそうかよ」
「ありがとー、カヅッちゃあんv」
「いえいえ、それより美堂くんも合流したんならちょっとは手助けしたらどうです? ぼーっと見てないで」
「オレは、銀次守るのに忙しーんだよ」
蛮ちゃんは、なんだか大いばりです。

あ、そういえば、オレまたなんか大事なこと忘れているような・・。

「ああ、そういえば!!!」
「あ゙あ゙? んだよ。 あ、こら勝手に降りんな!」
「あかばねさあああん!!!」
なんだかんだですっかり忘れてましたけど、あかばねさんが大変なのでした!!
オレ、蛮ちゃんの腕から降りて、思わず駆け寄って。
あかばねさん、あかばねさん。
どうしてこんなことに・・!

そしたら、ヘブンさんがかなしそうにいいました。
「銀ちゃん、ジャッカルが・・」
「あかばねさあん!」
「かなりざっくりやられましたからね、背中から。小さくなった銀次さんについ、”愛らしい・・”とか見とれてて隙だらけでしたから」
「・・赤屍まで、ショタかよ」
「ショタですね」
「ショタとは何だ。花月」
「十兵衛・・」
赤屍さんにしがみつくオレの後ろで、なんだかわかんないお話が始まってしまいました。
いくつまでショタの範囲って。何のこと、ソレ?
もお、みんなハクジョーなんだから、もう! 
オレは、あかばねさんが心配なのに。
「ねえ、ヘブンさん。あかばねさん、大丈夫だよね!?」
「銀ちゃん・・。それが、もう息してなくて。脈ももう・・・」
「そ、それって・・・」
うそ・・・。
まさ、か、そんなことないよ・・ね?
あかばねさんが死んじゃうなんて。
そんなこと、あるわけないよね・・?
「あかばねさん! あかばねさああん! 返事してよ、ねえ!」
「銀ちゃん・・」
「死んじゃいやだああ!! ねえ・・・っ! 熊さんのお肉、おいしかったよおお! あかばねさんが死んじゃったら、またオレに誰がお肉食べさせてくれんの〜!!!」

「・・・・・肉ぐらい食わせてやれ。美堂」
「・・ウルセエ」

「あかばねさん、いつだって、すんごく強かったのに! こんなこと信じらんないようっ!」
「銀次」
赤屍さんに取りすがってるオレを見かねたのか、蛮ちゃんがそっと後ろから肩に手を置いてくれました。
その、おっきなあったかい手にさわられた途端。
涙がぼろぼろ溢れてきて。
「ぎーんじ」
蛮ちゃんの手がオレの黒い髪(小さくなった時のオレの髪はなぜか黒です)の毛を、くしゃくしゃとやさしく撫でてくれます。
横に一緒にしゃがみ込んでくれたので、思わず蛮ちゃんの胸に飛び込んで、ぎゅうと強くしがみつきました。
「蛮ちゃあああん・・・! うわああん」
わんわん泣いてると、よしよしってやさしく言って、蛮ちゃんもオレをぎゅっとしてくれます。
「ばんちゃあ・・・ん」
「でーじょうぶだよ、銀次。このバケモンは、んなことでくたばるようなタマじゃねえって」
「だって、だって・・・! もう心臓もとまってるって!」
「んならよ、その辺に穴掘って埋めときゃ、また再生するかもな? なんせ得体の知れねぇ生命体だかんな、コレは」
「ひどいよぉ、蛮ちゃん」
「そうだ、美堂。いたいけな子供にそんなことを・・!」
「うっせー。ま、それにしても銀次。オメー、あんなに赤屍のこと怖がってやがったくせによー」
「そりゃあ、ちょっとというか、かなりコワかったけど・・。でも、オレのこと助けてくれたりしたこともあったし・・。きっとやさしいトコもあるんだよ・・。それに今は一緒にマドカちゃん奪還の仕事をする仲間だもん。仲間が傷ついて倒れたりしたら、悲しいのあたりまえでしょう・・?」
「銀次・・」
涙のたまる瞳で、蛮ちゃんの胸のとこから蛮ちゃんの顔を見上げると、やさしい目で見つめてくれます。
「いい子だな・・ オメーは・・」
「蛮ちゃん・・」
あったかい手で、オレの頬の涙を拭ってくれて、なぐさめるようにオデコにちゅvってしてくれました。
こんな時なのに、うれしい・・。エヘv
それから、もっかいぎゅっ!ってしてくれました。
蛮ちゃん、やさしい・・。
悲しいキモチが、ちょっとだけ和らぎます。

「とにかく、そんな簡単にくたばりゃしねーから安心しろ。な?」
「だって、蛮ちゃあん・・」
「ほら、もう泣くな」
「うん・・・」
蛮ちゃんは、オレの頭をまたくしゃっと撫でてからオレを降ろすと立ち上がって、靴の先でトン!と横たわっている赤屍さんの肩の辺りを蹴りました。
だめだよー、そんなことしちゃあ。
「オイこら、クソ屍! いい加減にしろっての! ウチの銀次を泣かすんじゃねえ! オラ、とっとと起きやがれ!!」
ちょっと乱暴ですが、蛮ちゃん。
オレも赤屍さんの胸にすがるようにして、同じように言います。
「ね、目開けてよ、赤屍さん! お願いだから! あかばねさあん・・・。あかば・・・・・!」



ぱちっ



「・・・・ふぇ・・・」





ほ、ほ、ほ、本当に目、開いた・・・・!!!!

こ、こ、こ、こわいよおおおおおお〜〜〜〜!!!


「ひえええええ〜〜〜〜!!!! ばんちゃんばんちゃんばんちゃん!ばんちゃあぁぁ〜〜〜ん!!!」
思わず猛然とダッシュして、蛮ちゃんの胸にゴムまりみたいにぽーんとはねて飛び込みました!
だって、だって、本当にびっくりしたんだもん!!
お化け屋敷なの、ここは〜〜!?
わーん。心臓がばくばく言ってます!
あまりの怖さに涙がとまりませ〜〜〜ん!!
「・・・ガキになってもタレんのか。テメエは!」
いつのまにか、タレちゃったらしいです。
でも、だって!!
「あかばねさんが、目、ひらいたああぁ〜〜〜!!」
「・・クス」
「うわあぁぁあん! びっくりしたよおおおぁお〜!」
「やっぱ、生きてやがったか」
蛮ちゃんの声に、むくっと起き上がります。
うええ、背中の傷はどうなったのおお〜〜!?
「どうも私は自分が死ぬというイメージが持てなくてねえ・・。なかなか死ぬことができないのですが・・。それに、目を開いてほしいと、銀次クンのたっての願いでしたからねえ・・」
「うええぇぇえ〜〜ん」
「ジャッカル! ガキを怖がらせて面白がってんじゃねえ!」
「クス・・ 本当に、なんとも愛らしい・・」
「わあああんん」
「ったく。だからテメーは、勝手にオレの腕から降りんなってえの!」
「ひっく・・はぁい。びえええぇぇ・・・・・・ん!!」
「もう泣くなって!」
「だあってぇ〜、あまりの怖さに泣きやめないよおおぉお・・・・!」
「だ〜! もう、ウルセエ!! おい、サムライの兄ちゃん。なんかよ、ほら、いつもの笑えねえダジャレでいーからよ。なんとか言ってコイツ泣きやませろ!」
「・・・わ、笑えないとは、失敬な・・・!」
「ま、まあまあ十兵衛。ここは押さえて。僕からも頼むよ。君の修行の成果を、今こそみんなの前で見せてくれ」
「そ、そうか・・。わかった、花月。では行くぞ」



ごくっ。




「赤屍が旅に出たんだってねー? 

へー、どこに? 

ジャッカルなだけに・・・・

ジャ(ッ)カルタ―――!!!」








しーん・・・・・。







「びええええぇぇええ・・・・・・んん!」

「・・・・すまねえ、銀次。ヤツに頼んだオレが悪かった・・・」




「ふ・・・・不覚・・・!」








十兵衛のダジャレを聞いたら、なんだかよけいに悲しくなってきて。
さんざん泣いてから、やっとどうにか落ち着いたオレに、みんなほっとしたみたいでした。
ごめんね?

でもとにかく、赤屍さんが生き返ってよかったです。
怖かったけど。


「さー気を取り直して、今度は蝉でも採っか?」
「・・・・何しに来てるんですか本当に、キミは」
オレは、また再び蛮ちゃんに抱っこなのです。
やっぱり、こうしててもらうと安心する。
「あ、でもばんちゃん。セミはだめなのです!」
「あ? なんでだ?」
「だってセミさんは、ずうっと土の中にいて、やっと外に出てきたと思ったら、そんなに長くは生きられないんでしょう。 だから、短い命を喜んだり悲しがったりしてあんなにウルサク泣くんだって、前に蛮ちゃん、そう言ってたもん・・・ 採ったりしたら、かわいそうだよ・・?」
「銀次・・」
蛮ちゃんがオレの言葉にイイ子イイ子してくれようとしたその時、誰かがぶわっといきなりオレの後ろに現れました。
振り返ると。
「おわ!? さっきのセミさん!?」
「坊・・・。名は何というでやんすか?」
「まだいたのか! テメエ!」
「あまのぎんじ・・」
「いい名で、やんす・・・」
「はい?」
「こら、テメエ! 虫臭ぇ手で銀次にさわるな!」
「いい子でやんすね。これを坊にあげるでやんす」
「は?」
「では、さらばでやんす〜」
「・・・はい?」
なんだかよくわかんないけど、セミさんはそんな感じで、またとーとつにぶわっと姿を消してしまいました。

「何もらったんだ? 銀次」
「・・・・・セミの抜け殻・・」
これをどうしろと???
「知らねえセミから、物もらうんじゃねえ・・」
「はぁい・・?」



そんなこんなで。
オレたちのお仕事は、まだまだ続くのです。
ていうか、この谷は本当にこわいことばっかで、オレ、ちょっとオシッコもらしそうです。
蛮ちゃん、オレを守ってね?


でも蛮ちゃんの腕の中は、やっぱりとても強くてあったかくて。
安心なのです。
オレも、早く元に戻って、蛮ちゃんみたいに強くなれるように頑張るよ。


・・でも、なんか。
あまりにここが居心地がいいからね、もうちょっと小さいままでもいいかなぁなんて。
ちょっと思ったりしてみるのでした。エヘ・・v







END





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
パパは奪還屋2なのです。
マガジン28.29のネタバレが多く含まれていますが、なんだかこうやって書いてみると、どっからどこまでがネタバレなのか、自分でもよくわかんなくなっちゃった・・。
とにかく間違いないことは、銀ちゃんが小さくなってないことと(あたりまえ)蛮ちゃんが一緒にはいないってことなのですヨ・・。くすん。