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風太
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2003年06月13日(金)
「パパは奪還屋」

だから言わんこっちゃねえ。
嫌な予感はしてたんだ。
チャイナストリートの上空を雲が覆い、雷鳴が轟いたその時から。

白紋を押し退け、「羅網楼」の最上階への階段を駆け上がるオレの胸でさらにその予感は膨らんで。

「やめろ、銀次!!」

叫んだが・・・。
遅かった。
ヤロウは、天空から落ちてきた雷をその身体にまともに受け、一気に力の放出をしやがった。

そんなことをしたら、どうなるか。
よく言ってきかせてただろうが!
ったく、バカヤロウめ・・!
人の話をちったぁ真面目に聞け!ってんだ。

大爆発が起こり、辺りは炎に包まれ、女郎蜘蛛はとっとと退散しやがった。

オレは、ただ。
ただもう、呆然と。
呆然と、そこにへたり込む銀次の小さな背中を見つめるほかなかった。



やれやれ・・。
カンベンしてくれってのー。
また、かよ・・。



「ばんちゃあ・・・ん・・・オレ・・・・・また・・・」

「おう・・」


炎の中で、オレを振り向き、べそをかいて申し訳なさそうに言う。



「オレ、また・・・・ちいさくなっちゃったぁ・・・・」

「・・・・・ああ」



見りゃわかるって。

だから言っただろうがよ・・。
力の大放出をした後はよ。
テメエ、ガキまで退化すんだから。
気ィつけろよって。
・・・さんざ、注意しただろうが。


アホ。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「うわあん、ばんちゃあん」
「ああもう! うるせえ!」
「だってぇ!」
「ついて来んな!」
「ちょっと、蛮! コドモ相手にそれはひどいんじゃない?!」
「そうですよ、銀次さんは今はどう見ても5歳の幼児なんですから。そんなにひどい言い方しなくてもいいでしょう!」

チャイナタウンの一角は雷帝の力で吹っ飛んで、辺り一面もうもうと煙が上がり、街はすっかり大騒ぎだ。
とりあえずは脱出したものの、んなガキつれて、これからいったいどーしろってんだ!
鬼里人の谷に向かおうって時に!
すげなく、絡みついてくる小さい手を振り払うと、いつのまにか現れた糸巻きまでが銀次を庇いやがる。
まあ、相手は確かに5,6歳くれえのガキだ。
なんで退化するたんびに、黒髪でオーバーオール姿になるのか今もって謎だが、そんなことはこの際どうだっていい。

「だからテメエが、とっととホンキートンクにこのバカ預けてこいっつってんだろーが、糸巻き!」
「ですが」
「やだ! オレ、ばんちゃんといくー!!」
「そんな小せぇナリで何が出来るってんだ。ええ?!」
「でも行きたいもん!」
「遊びに行くんじゃねえんだぞ!」
「でも、ばんちゃんとはなれるのなんか、ぜったいやだー!! うわあああん」
「あーよしよし」
涙をぼろぼろ流して、鼻もついでにだらだら流して、銀次が困ったような顔の卑弥呼に頭を撫でられ、今度は卑弥呼に懐いていく。
タレてんのが気持ち悪いとか言うわりには、コドモになった途端、えらく銀次に甘いのはどういうこった? 卑弥呼。
テメー、ショタかよ。
「はいはい、いい子」
「ひみこちゃあん・・」
「なつくな、テメエ!」
「ばんちゃんがおこったー」
「蛮、怒鳴らなくてもいいでしょう! こんな小さい子に向かって」
「・・・・・テメエらなあ」
脱力するオレに、卑弥呼の腕から飛び降りて、きっ!と涙目を向け見上げるようにして銀次が言う。
「ばんちゃん、オレ、ついてくー!!」
「・・だめだ。オメーは来んな、足手まといだ」
「ひどいよぉ」
「ホンキートンクで、タダ飯食ってろ」
「1人じゃやだ!」
「あのなあ」
「やだやだやだ! 一緒に行く!」
「失せろっての! テメエみてぇなガキ、使いもんになんねーんだよ!」
思わずギロッと睨み付け、凄みをつけて言った言葉に、銀次の小さい体がビクッとなる。
さっき以上に、でかい大粒の涙が、また新たにぼろっとその瞳を溢れた。
「う・・・・・」
「お・・?」
「うわぁぁああぁああぁぁ〜〜〜〜っ!!」
「・・・・・え゛?」
「うわあああああーーーーっっ」
「お・・・おいおい」
「わああああぁぁ〜〜〜ん!」
「そ・・・そんなに泣かなくてもよ・・・」
「だって、ばんぢゃんがぁああぁああぁぁぁ〜〜〜!!」
「ちょっ・・・・泣くなってぇの・・。おい」
涙と鼻水の大洪水になって、大声で泣かれると、さすがにどうにもこうにも面食らうというか・・。
思わず屈んで、ヤツと同じ目の高さになって、くしゃくしゃの黒い髪を余計にくしゃくしゃにしつつ撫でてやる。
なーんか・・・。
やたらとやわらけー髪だ。
オメー、もとはこんな猫っ毛だったのか。
思いつつ、銀次の頭を撫でるオレが余程困ったような顔をしていたのか、涙を拭いながらちろっとオレを見、銀次がしゃくり上げながら、なんとか泣きやもうと唇を噛む。
・・・・アホウ・・。
まだ泣きたいのなら、泣いていろ。
ガキが、人の顔色伺ったりすんじゃねえ。
頬を手のひらで撫でてやると、ちょっと切なそうな顔で言った。


「だって・・・ひっく、ばんちゃん・・・・・っく・・・・ げっとばっかーずの”ず”は・・・・・」
「・・は?  ”ず”?」

それを言うなら、「GetBackers」の”s”は・・・・だろうがよ?

「”ずーっといっしょ”って意味の、”ず”じゃなかったの・・・?」


え? そ、そうだっけか・・?


「・・・あ? いや、ちっとチガウような気もすっけど・・」
「ぢがうのー!?」
「いえ、ちがいません!! そのとーりです!」
「本当!?」
「・・・まあ、本当・・・じゃねぇけど、本当・・・・つうか」
「よかったv」
「いいから鼻ふけ!おら」
「ズズズ・・・!」
「かむなー!」
思いきり人のハンカチで鼻をかんだ後、片膝をついた状態のオレの身体にもたれ掛かるようにして、鼻をくすんと鳴らして銀次が言う。
「・・・・いっしょにいく・・・」
「・・けどな、銀次」
「いっしょにいたいの。はなれたくないの・・」
「・・・・・」
「オレがいっしょじゃなかったら・・。ばんちゃん、いっぱいピンチになりそうが気がする・・」
「・・・ヘッ、オレはでーじょうぶだって! 無敵だって知ってるだろうが。テメーも」
「でも・・。やっぱり一緒じゃないとだめ。オレ、小さくなっちゃっても、ゲットバッカーズだもん・・」
「銀次・・」
「それに、ホンキートンクにいたってコワイ虫さんがきたらいっしょだし・・。ばんちゃんといっしょの方がいい」
「まーそりゃあ・・・」
確かに波児と夏実とヘブンしかいねぇ店に、鬼里人の差し向けた刺客が来たら、こんな小さいガキじゃひとたまりもねえ。
・・そっちのが危険と言や、危険か・・。
それにしても。
「ね?v」
「なぁんか・・・・・テメエ・・・ ガキでいる時の方が、頭の回りがよかねーか・・?」
「んあ?」
まーいいけどよ。
「んじゃよー。銀次、テメーずっとココにいるって約束できっか?」
「ココ?」
ココってドコ?と首を傾げる銀次に、ポンと自分の胸の叩く。
「一番、安全な場所」
その言葉にきょとんと首を傾げて少し考え、ややあって答えを見つけて、
満面の笑みで頷く。
「うん!!」
「よーし、来な」
屈んだまま左腕を伸ばすと、そこに飛びつくようにして入り込み、オレの片腕に抱き上げられて首にしがみつく。
「わーいv」
「落っこちんじゃねえぞ」
「うん!」
「オレの指示なしに、勝手に降りんな」
「はーいv」
オレの言葉にさも嬉しげに、、銀次が、さらにぎゅっと力を込めてオレの首にしがみついた。


ずっとしがみついとけ。
ここはお前の、お前だけの場所だから。
でかい図体に戻った後も変わりなく、ずっと。


「んじゃまー行くか」
「なんのかんの言いつつ、甘いですね。銀次さんには・・」
「なぁんで不服そうなんだ、糸巻き」
「別に。あ、重かったら、僕がいつでも変わりますから」
「けっ。んなの重さのうちに入るかっての。まあ、いつものあのデカイ銀次じゃあ、片手じゃちっとキツイんだけどな」
「・・・・・・へー。あんた、いつも天野銀次に、こんなことしてるんだ・・・」
「・・・あ゛?」
歩き出すオレたちの背後からの、卑弥呼の鋭いツッコミに、思わず固まるオレを無視して銀次が無邪気に言う。
「うん! ばんちゃんたらねー、すぐオレのこと抱っこしたがって、そんで服の下から手・・・」
「おわああ! ほら銀次、よそ見すんな! これから虫だらけのとこに行くんだからよ、ビビんなよぉ」
「うん、オレ、虫大好き! いっぱい採ろうねー!」
「おう! って、アホ。昆虫採集に行くんじゃねえんだぞー」
うまく誤魔化せた・・・はずもなく、背後から糸巻きからも殺気が漂ってくる。
「へえ、そうですかー。銀次さんの服の下から手をねー・・・」
「・・・・節操のない男・・」
「・・・・オメェらなぁ・・・」
「わーい。虫v」


なんとなく、前途多難な空気が既に漂いまくってはいるが・・。
まあ、お子様サイズになった銀次は、持ち運びにはラクだし、くっついてくる頬は、やわらかで気持ちいーし。
どうなることやら、わからねーが。
まあ、どうにでもなるか。
一緒ならな。
この腕から、コイツを離さない限りは。
オレ様の、無敵な強さもさらに無限大よ。





首洗って待ってろ。
鬼里人!










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「つーわけで。んじゃな、糸巻き。卑弥呼はまかした!」
「はい?! ちょっと待ってください、卑弥呼さんは、美堂くんが助けに行くんじゃないんですか!?」
「オレは銀次を守る。テメエは卑弥呼を助けろ」
「ええっ、あの・・!」
「テメエが卑弥呼を守れ。いいな!」
「ちょちょっと、美堂くん! キミは、邪馬人さんという人との約束があるんじゃあ」
「んなこと言ったってよ! んな崖、子連れじゃ無理だろーがよ。んじゃ、まかせた! こちとら忙しいーんだ!」
「美堂君!!」
「ばんちゃーん」
「おう、どーした」
「あっちにクワガタがいた!!」
「あ?」
「一匹ほしーv」
「おし、どこだ?」
「あっちあっち」
「よーし、捕まえんぞ! 網よこせ!」(←どこからアミ?)
「はい、ばんちゃん、頑張ってーv」
「おう、まかせろ!」




「だーかーらー!! 昆虫採集に来たんじゃあ、ないんですってばー!!」







END












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お粗末でした・・。
カヅッちゃん。ごめんなさい(笑)

ええと、このチビ銀は、前に書いた「Love&Battle」というお話の設定そのまんまで書いてます。
雷帝化して、力を使いすぎると5歳まで退化しちゃうのー。
知能、思考回路はともに幼児化しますが、前に書いたお話では記憶がなくなってたけど、今度は記憶はちゃんと18歳のまま。
だから、ボクではなくオレって言ってます。

またシリーズで書けたら楽しいかな〜v

いつも血飛沫に嗤わせてくださる、保護者モエな武東さんに捧げますv えへv