ゼロの視点
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2004年11月15日(月) 失われた時を求めて・1

 それは唐突にやってきた・・・・・。

 日本に里帰り中の私は、すっかり初期痴呆の母のペースに合わせて、パリ生活と正反対の、早起き早ねの生活をしはじめて、はや2週間が過ぎた頃、パリから一通のメールが届いた。

 それは友人Pからだった。昨日から、彼の仕事(某航空会社のスチュワート)で日本に来ていて、48時間都内のホテルに滞在するという。で、可能ならば、わしがそこに合流して、一緒に遊べないか?、というお誘いだった。

 Pの彼女Fもスチュワーデスで、今回は一緒に来るという。私は、同い年のPと仲がいいし、彼女のFも大好きなので、快くOKして、彼らの宿泊するホテルに向かった。

 いざ彼らのホテルに到着してみると、そこはかつて私が大学生時代に嫌というほど歩いた通学路。フランス暮らしをしてから、この界隈に足を踏み入れるのは、本当に初めてのことだった。

 妙な懐かしさに、アタマをクラクラさせながらも、とりあえず彼らの部屋へ直行。そして、彼らに導かれ、某航空会社の乗務員が集ってアペリティフを楽しんでいるというサロンへ入っていく・・・・。

 一歩サロンに入ると、そこは200%フランスだった。テレビもフランス語、で、だーらだら、とはいえ、ベラベラと好き勝手に話すフランス人がわんさか。でもケチゆえに、とりあえず、みんなでアルコールやつまみ類を持ち寄って、それでチビチビとやる・・・・。

 日本的は自己紹介もなく、誰彼ともなく、適当に今転がっているサッカーボールに絡むように、話に参加しはじめる。

 マガジンラックにある雑誌まで、全部フランス語。本当に、つい数週間前まで日常にあった世界が、このサロンに入った瞬間に存在している不可思議。

 すっかり自分がどこにいるかも忘れて、その瞬間、瞬間に没頭しているうちに、アッという間に時間が過ぎ去っていった。

 そして、さて帰ろうと思うと、電車がない・・・・。が、ラッキーなことに、P&Fカップルは、各自部屋をキープしていた上に、カップルなので、一部屋があまる・・・。なので、それをちゃっかりと利用させてもらって、私は1人、彼らの隣部屋で熟睡させてもらった。

 そして、翌朝、彼らとの待ち合わせ時間にロビーに降りていくと、そこにはバッチリと某航空会社の制服で、仕事モードに入っているP&Fカップルがいた。パリでは、あちこちのパーティーで一緒だったけれど、彼らの制服姿を拝ませてもらうのは、これが始めて。

 仕事モードとはいえ、口をひらけば、“あーあ、また仕事しなきゃ・・・”“たまんなーーい”など、典型的なフランス人(笑)。

 ひとしきり、ロビーで3人で楽しんだ後、私は彼らが乗り込んだ成田行きバスを見送った。

 ああ・・・・・、これから彼らはパリへ戻っていくのだ・・・・、と思った瞬間、強烈に10月末まで当たり前のようにいたパリのあちこちの街角のイメージが、とどめもなく私のアタマにフラッシュバックしはじめ、彼らと一緒にそのままパリへ戻りたいという激しい衝動に襲われてしまった・・・。

 なんという心細さ・・・・。私だけが取り残されてしまったのか・・・・?!?!?!。いつになく、際限のない不安が私に留まりつづけ、フラフラとホテルと後にした。

 そして、たどり着いたのが、某コーヒーショップだった。パリに戻りたいと思いつつ、身体は昔のことをはっきりと記憶しているかのように、大学生時代に通いに通いつめたコーヒーショップに、私は入っていた・・・。

 そして、パブロフの犬のように、当時と同じメニュー(これが恐ろしいことに未だに存在していた!!)を頼み、これまた当時と同じように喫煙席に1人陣取って、ボーっとする。

 当時、いつも友人のY嬢と一緒に、講義が終わった後ここに立ち寄り、将来の不安や、現状の不満などを延々と話し込んでいたものだった。話し込めば話し込むほど、打開策がみつかるはずもなく・・・、とはいえ、やめられない、妙な習慣、と、いったところだろうか。

 しかも、わしらは仏文科の学生だった(汗)。双方ともまったくフランスなどへ留学する気もなく、適当にしかフランス語自体の勉強もせず、今思えば、思う存分、いわゆる“モラトリアム”な時を過ごしていたのだと思う。

 迫り来る就職活動への不安などもよくここで語り合った。で、互いにフランス文学など全く関係のないところへ就職活動を開始させてもいた。

 が、今は・・・、だ。このコーヒーショップの目の前にあるホテルで、フランス語でフランス人と当たり前に交流してきて、彼らと一緒にパリに帰りたくなっている自分がいる、という、なんともいえない奇妙な感覚を、どう説明したらいいのだろうか・・・・?!?!?!。

 簡単にいえば、“なんちゅー人生だっ”という感じ、か?!?!?!。

 そして、当時と同じように、充分このコーヒーショップでダラダラしたあと、抑えようもない好奇心にしたがって、当時の通学路を歩み出し、私は母校の校門の先へと足を進めていった・・・・・・・・。


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