ゼロの視点
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2003年12月11日(木) パリ症候群

 昨日の夜は、友人MJの家でディナー。ゼロの母がパリにやってきているのなら、是非、我が家に来て欲しいということで、これが実行された。もちろん、今、母の微妙な状態ということもすでに彼女には話しておいた。

 MJは長いことパリで習字を習っている。私の母は実に高校の時から習字を趣味として続けており、私が日本へ戻った時は、MJに色々と習字関係のみやげをあげてきた仲でもあった。前回の里帰りの時は、母の師範が書いたという掛け軸をMJにあげたら、強烈に喜んで、それを見た私は、逆にひいてしまったほど(笑)。

 MJと夫の計らいで、そこには指圧をやっているフランス人なども数人招待されていた。その中には、プロのマッサージ師として、芸能人から政治家までを客としているDもいた。かれらが、さりげなく母の背中をマッサージ。本当は私がやればいいのだろうが、いかんせん、母のどこかで“まだ娘の世話にはなりたくない”という思いが強いので、ここでは私は手をださず。

 母の首、背中を数人がかわるがわるマッサージするのだが、そのたびにみんなが、“すんごい、かっちんこっちんだよ”と私に言ってくる。そうだろう、と思ったよ。だって、全然最近運動などしてないし、不安と緊張でカチコチになっていて、意識混濁までなっているのだからっ!!。

 が、不思議なことに、こうしてマッサージされていくと、母の顔がどんどん活き活きしてくるのだ。さっきまで、眠いだの、疲れただの言っていた母が、『ゼロ、目が覚めてきたわよ、私』なんて言い出してくる。おおっ、思った以上の効果だ。

 そして、この晩、身体がほぐれた母は、再びクスリを飲んで熟睡。朝10時半まで一度も起きることはなかった。

 相変わらず、呆け発言は続いていたが、それでも肉体的には落ち着いてきた母。それらを見ていて、今週末に予定していたブルターニュ地方はレンヌに住む姑のところへ行く、という案をどうしようか?、と考え始めた。とういのも、こうして徐々に、それでいてやっと慣れ始めてきた我が家での生活から、また今度は、《娘の夫の母親》のところに2泊するという新たなストレスと環境の変化が、どうもいい結果をもたらすとは思えない。

 しばらく考え込んだすえ、本棚を見るとそこに昔買った『パリ症候群』の背表紙が私の眼に飛び込んできた。何もしないではいられない母には、たまりにたまった夫のワイシャツのアイロンかけを頼む。母は嬉々としてアイロンかけに励む。そして、昔彼女がよく聞いていた、フィッシャー・ディースカウが歌う、シューベルトの『冬の旅』をBGMにかけておいた。

 その間、私は『パリ症候群』を読み返す。在仏日本人で精神に変調をきたした例も書いてあるが、旅行者の例もたくさん書かれている。意識混濁を起こすには年齢は問わず、もともとの性格などが大きくかかわってくる等、色々書かれていて、思わず読み耽る。

 そこで、ふと思いついた。そうだ、この著者に電話してみよう。著者であるO氏は、パリで唯一といわれている、日本語での電話相談などをやっているかただ。特に、日本人旅行者の精神トラブルには強いゆえ、さっそく相談すると、私が思ったように、絶対に今週末に、母を再び移動させるようなことはしないようにと何度も念を押される。

 次に、この旨を夫に伝える。今度は夫がパニックになる。というのも、今週末のために、80歳と半年の姑は、一ヶ月も前から色々と準備をしていたからだ。姑も一生懸命になりやすい性格で、最高の思い出を私の母に作ってもらおうと、無理をして準備していたことは想像するに容易い。

 私の母は、この旅行をキャンセルすれば、もっと回復する。が、これをキャンセルすると、今度は姑がショックで倒れる可能性がある・・・・。

 パニクる夫となだめて、とにかく夫からもO氏に電話して直接話してもらうことにした。O氏が的確に説明してくれたおかげで、夫は予想以上に簡単にキャンセルに応じ、あとは、自分の母親の説得と、精神的サポートに半日を電話で費やしてくれた。

 姑は、これで一挙にガックリとしてしまったが、それでも色々と医学的にも説明して、ようやく立ち直った。

 その後、ルーブルの地下であった展覧会のオープニングへ夫と私と母の3人で出かける。姑の友人で78歳の女性画家がそこに出展しているからだ。彼女は、猛烈におしゃれで、元気。こういったいくつになろうとも、元気で活き活きとしている女性を見ることは、母にもいい機会だと思う。また、会場には、ヒトの眼も気にせず(これが日本人だと逆)好き勝手に着飾ったり、逆に汚い格好のまま平気でいたりする高齢者など選り取りみどり。

 こういった人たちを見ているうちに、また母の表情が和らいできた。滞在中にどこまで母が復活できるのか?、これが私の当分の課題になりそうだ。
 


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