ほんとうのラブソングを聴きましたか? (桜島ライブ56) |
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2004年11月06日(土)
『ほんとうのラブソングを聴きましたか?』−桜島ライブ(56) text 桜島”オール”内藤
通信販売されたフォトアルバム。監修は長渕悦子さんです。
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M-41 何の矛盾もない −アルバム『LICENSE』(1987)−
『桜島』を乗り越えたことで、 誰もがライブの終わりを予感していました。
剛、やったぞ、との思い。 そして、まだまだ終わるな、との思い。
その思いが、万雷のツヨシコールに結集しました。
しばらく、呆然としていた僕も、 気を取り戻し、観客と共にコールを叫ぼうと、 息を吸い込んだ瞬間・・・ やさしく流れ出したピアノのメロディが、 僕の叫びの行方をはばんだのです。
そのメロディは、ZEPPの初日、 僕が見ることができなかったZEPP初日の、 最後を飾った曲でした。
剛のラブソングの中でも、 段違いの美しさと繊細さを誇るその曲は、 Never Changeツアー以降に剛のファンになった僕が、 15年ものあいだ、 ライブで出会うことができなかった曲でした。
ZEPPの初日で演奏されたと聞いて、 地団太を踏んだあの曲が、 ついに僕の前で歌われようとしていました。
感動という使い古された言葉で言い表すのが、 なんとももどかしい。
心が、みしみしと、動く。
年に何度もないような、そんな瞬間が、 桜島ライブでは何度もやってきていました。 そして『桜島』を乗り切った僕に、 再びその瞬間がやってきていたのです。
「見て!
桜島、見て!」
剛の声。 はっきりと、伝わる、剛の声。 その言葉にうながされ、 ほとんど全員が、振り返り、 桜島に目を向けました。
太陽はまだ顔を見せてはいませんでしたが、 桜島の背後の空を白々と照らしていました。
「2年間かけて、 この音楽の祭典を作るため、 汗水たらして、約束の地を作ってくれました。 この山と、この山に住む人たちに、 盛大な拍手を!」
僕らは、桜島に向かって拍手を贈りました。 桜島に向かいながら、姿の見えぬ人たちに、 僕らは拍手を送っていました。
既成の会場ではなく、 荒地を切り開いて作られた会場。 この場所を作ってくれた人たちに。
「青い空、青い海、 そして、きれいな心のみんなたちに、 心から、感謝します!
心から・・・感謝・・・しますっ!!」
剛の声が泣いている。 喜びに満たされ、鳴いている。 しわがれた声でした。 『桜島』は、確実に、剛の声帯に、 その激しさの痕跡を残していました。
「ここは、僕たちの約束の地。
生涯、忘れない!
遠くから集まってきてくれたみんなに、 心をこめて、この歌を・・・」
剛の言葉が一瞬、途切れました。 喉の奥底から沸きあがる感情を、 僕は奥歯を噛み締め、こらえました。
「贈ります・・・。」
言葉がない。 あの時間を言い表す言葉がない。
僕は友人の方を向いて、 親指を立てた拳を突き出しました。
友人は僕の顔を見て、 数回、うなずきました。
僕らは、このとき、思っていました。
これで終わりでいいよね。 これで、最後の曲でいいよね。
30分遅れて始まった桜島ライブは、 30分、終演時間を過ぎていました。 しかし、そんな、時間のことよりも、 このときのドラマチックな剛のMCを聞いて、 僕らは、僕らの心の中の納得を、確かめ合ったのです。 待ち望んでいた『Captain・・・』がなくても、満足だと思いました。 だって、こんなにも素晴らしいエンディングじゃないか。
焦熱の愛、『何の矛盾もない』!
そして、静寂の中で、胸熱くたたずむ僕らに、 『何の矛盾もない』を届けるため、 剛はマイクを握り締めました。
例えば 今日という日が 何であるのかを 俺は お前の 子供になり 胸元に還る
お前の からだは丸く 俺を安めるよ つつましく つつましく 満ちていて 何の矛盾もない
なんていう歌詞だ・・・ どうしたら、こんな歌詞が書けるのだ。
どんなことを思い、 どんな毎日を送り、 どんな恋をすれば、 こんなメロディが心に流れるのか。
俺の 頬を 撫でる お前の手のひら とても 重く そう たやすく ひるがえらない 密やかな くちづけは 俺の血液に 溶け入って 脈拍は せせらぎへと
焼ける 焼ける 焼け焦げる 俺たちの熱情に 何の矛盾もない
一番の歌詞を歌い切った直後、 剛が息を吐き出す、 言葉にならない声を聞きました。 それを合図にするように、 歌に、剛に、僕らからの拍手が贈られました。
史上最高のラブソング。 僕はこのとき、何の迷いもなく、 そう信じることができました。
この歌は、ある女性のことを歌っているのだと、 僕はずっと聞いてきました。 長渕悦子さん。 言わずと知れた、剛の奥さんです。 剛も、どこかで、そのことを語っていたかもしれません。 僕はそれを読んだことはないのですが、 曲が作られたタイミングから考えても、 それは真実に思えました。
僕は、悦子さんと籍を入れた直後、 ワイドショーのレポーターたちを前に、 恥ずかしいほどにはしゃぐ、剛の映像を思い出していました。 それは、当時、テレビで何度も放送されていました。
例えば 今ここで 俺の 首をふさいでも 俺は お前の 潤んだ瞳 真っすぐ見つめられる
お前が 生きてる限り 俺はそばにいるよ 狂おしく 狂おしく 愛していて 何の矛盾もない
あの、剛を暴風雨のように襲った、 1995年の逮捕劇。 あのとき、剛が逮捕されてわずか5日後、 まだ剛の身柄が警察に拘束されているときに、 悦子さんは、自筆の手紙を、 世間に向けて、マスコミに向けて、したためました。
剛の逮捕に少なからず動揺していた僕は、 その手紙が載った新聞を読み、 軽い衝撃を感じたことを覚えています。 なぜならば、それは形式ばった謝罪の手紙などではなく、 強い意志に裏打ちされた決意表明だったからです。
悦子さんの手紙には、こんな言葉が並んでいました。
「妻として深く反省し、心よりお詫び申し上げます」 「一日も早い夫の帰りを待ち望んでおります」 「償いをさせていただき、共に歩んで行きたいと思います」
そして、ひときわ目立つ「長渕悦子」の署名。
なんて力強い支えなんだろう・・・ 一点の動揺も、恨みも、後悔も、 その手紙からは読み取れませんでした。 不謹慎な言い方かも知れませんが、 それは、まるで、ラブレターのようでした。
俺の髪を なでる お前の手のひら とても 重く そう たやすく ひるがえらない 密やかな くちづけは 俺の血液に 溶け入って 脈拍は せせらぎへと
焼ける 焼ける 焼け焦げる 俺たちの熱情に 何の矛盾もない
ほんとうの愛情が産んだ、 ほんとうのラブソング。
嬉しい。 やっと、出会えた。 この、最高の、ラブソングに。 この、桜島で・・・
Forever Forever Forever Forever ever シャイニン、イン、マイ、ラーーイフ!
ただ、ただ、 無心で、 僕は拍手を送りました。
桜島の空は青く、 桜島の雲は輝き、 僕らは汗と土の匂いに満ち・・・
なにもかもが終わった戦場に、 兵士のようにたたずむ、剛がいました。
続く
<次回予告> 何の矛盾もない、大河ドラマのエンディング。 様々な思いが走馬灯のように駆け巡り、 満足と納得の、別れの拍手を贈る中、 ステージの剛の目には、まだ炎が灯っていました。 そして、ステージセットに・・・白い帆がかかったのです。
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