長渕剛 桜島ライブに行こう!



願いは叶いましたか? (桜島ライブ57)

2004年11月07日(日)

『願いは叶いましたか?』−桜島ライブ(57)

                 text  桜島”オール”内藤





あの夜、骨組みだけしかなかったメインステージ。
夜を越え、あの骨組みは、希望の風を受けるマストへと変わったのです。


★長渕剛 桜島ライブに行こう!バックナンバー ←クリック

=====================================================


M-42 Captain of the Ship (1)
 −アルバム『Captain of the Ship』(1993)−



桜島ライブという胸踊るイベントには、
僕らが舌なめずりするような、
誘惑が散りばめられていました。

オールナイトライブという、未知の体験。
剛の歌を一晩中聴けるという豪華さ。
そして、剛が命懸けと公言するほどの希少性。

桜島ライブの企画は、僕らの好奇心と想像を、
これでもかと直撃していました。

想像は想像を呼び、
妄想はふくらみ、
あんなことがあるんじゃないか、
こんなことがあるんじゃないか、
後にも先にも、
あれほどひとつのライブを巡って、
想像力を駆使したことはありません。

そんな想像の世界で練り上げられたストーリーに、
しばしば現実は負けてしまうものです。
特に、スポーツの世界では、そんなことの連続だ。
ライブではそれほどではないけれど、
期待以上のものに現実に出会うことは、
やはりそうそうあるものではありませんでした。

桜島ライブに限って言えば、
僕らの無数の期待の中でも、
真っ先に浮かび、
そして、繰り返し、繰り返し、話題に上がったのは、
あるひとつの歌の存在でした。

「これをやらなかったら、
 桜島ライブをやる意味がない!」


僕はそこまで言っていました。友人に向かって。
友人も、ゼッタイに聴きたい歌だと言いました。
そして、そう思うのは、僕らだけではありませんでした。
それほどの、聖なる一回性の魅力を持つ曲でした。
それほど、二度とない大舞台にふさわしい曲でした。

しかし、僕らの期待を上回るような演奏が、
桜島ライブでは多数繰り広げられたことで、
僕らは、満足していました。

僕らは、間違いなく、満足していたのです。

『何の矛盾もない』が終わったとき、
すでに桜島ライブは、
僕らがこだわっていたあの曲を待つことなく、
僕らの期待を超えていたのです。

僕らはものわかりのいい観客でした。
すでに、十分に満足していたこと。
ツアーバスの時間を気にする多くの観客がいたこと。
そして、なによりも、多くの観客の消耗。

それらが会場に醸し出すムードを、僕らは感じとっていました。
もちろん、まだまだエネルギーが有り余っている観客は多い。
でも、総体として、桜島の観客は十分に消耗していました。

そんな、諸々の情報を、意識的に、無意識に、
頭の中で整理し、
「十分だ、素晴らしかった、ありがとう」と、
納得し、拍手を送っていました。
心の中で、桜島ライブに幕を降ろしていました。
そろそろ、このへんでいいだろうと・・・。

僕らは、ものわかりのいい観客だったのです。


(終わった・・・桜島ライブが・・・)


僕はマフラータオルを胴体から外し、
だらりと垂れ下がった手で力なく握っていました。
ステージでは、共に闘い抜いた仲間たちを、
剛が紹介していました。


笛吹 利明 / A.GUITAR
浜田 良美 / GUITAR & CHORUS
角田 順 / E.GUITAR
川嶋 一久 / E.BASS
岡本 郭男 / DRUMS
国吉 良一 / KEYBOARDS
昼田 洋二 / SAXOPHONE
和田 恵子 / CHORUS
中山 みさ / CHORUS
ジャッキー / CHORUS



ありがとう、ありがとうと、
僕らは彼ら、彼女らに、
剛に送るのとまったく同じように、
声援と拍手を送りました。

そして、僕は待っていました。
剛からの別れの言葉を。

あの歌を叫びながら、
ステージでぶっ倒れる剛の姿。
あるいは、声がぶっ潰れ、
聴き取れない言葉を絶叫する剛の姿。
僕が夢想していた壮絶なシーンは、
昨晩、友人にホテルで笑い飛ばされていました。

そんな、自分の浅はかな想像力を笑いながら、
拍手を送るステージメンバーたちから、
剛へと視線を移したのです。


しかし−−−−−


そのとき、僕のうつろな目に映ったのは、
いまだ張り詰めた緊張感をたたえた、
剛の表情、鋭い眼光でした。

(えっ・・・そんな・・・)

そのときから、
5分ほどの時間だったでしょうか・・・

一度絶頂まで登り詰め、そして、
一気に脱力した僕の気持ちが、
またもやムクムクと再生していく、
あの感触。

あの、死んだ魚が飛び跳ねるかのような感触は、
ライブから2ヶ月が経った今も、
僕の胸から消えることはありません。

剛のメンバー紹介が終わっても、バンドメンバーたちは、
ステージの中央に集まるそぶりを一向に見せませんでした。

剛はメンバー紹介を終えたものの、
別れの言葉を探しているムードはみじんもない。

ステージセットの上に、何人かのスタッフが、
するすると登っていました。

どこをどう探しても、ライブを閉じようとの動きは、
僕には見つけられませんでした。

そして・・・・
セットに登ったスタッフがなにやらひもとくと、
ステージの上方に、三角の帆がかかったのです。

僕は鼓動が、ドクン、ドクン、と、
強く波打つのを感じていました。

ピンと三角に張った帆は、
桜島ライブがまだ生きている証でした。

(まだ、終わっちゃいない・・・)

指先がピリピリとしびれていました。
一瞬のうちに膨張し切った、
爆発しそうな期待感。
そして、剛のマイク。


「まだ、行くぞーーーっ!」


その瞬間、
剛は、僕らが勝手に下ろしたライブの幕を、
両手でまっぷたつに引き裂いたのです。


「おまえら、行くかーーーっ!
最後の力を振り絞って行くぞーーーっ!
倒れるまで行くぞーーーっ!」



全身から、怒涛のように、
エネルギーが沸き起こってきていました。
自分のものわかりのよさを恥じました。
僕は大切なことを忘れていたのです。


「いくぞーーーーっ!」

  うぉおおおーーっ!

「いくぞーーーーっ!」

  うぉおおおーーっ!

「いくぞーーーーっ!」

  うぉおおおーーっ!


剛は言っていたじゃないか。
命懸けの祭りだと。
勝つか、負けるか、
白か黒のどっちかだと・・・

まだ、命を賭けてないじゃないか。
まだ、勝っても、負けてもないじゃないか。
白も、黒も、ついてないじゃないか。

僕は、もう一度、向き合いました。
真っ向から、桜島ライブに向かって。


「最後の歌だあああーーっ!」


剛の絶叫は、僕の胸に突き刺さり、
そして、最後の歌のプロローグを桜島の空に放ちました。

初めて聴くようで、
どこかで聴いたような、
耳に馴染みのあるメロディが、
静かに流れていました。
キーボードが奏でるその旋律の中、
最後のエネルギーを一身にため込みながら、
僕らは固唾を飲んで剛を見つめていました。

「来いーーーーーーっ!」

たまらず、誰かが叫びました。

何に来て欲しい。
何を望んでいる。
何が欲しい!?
何が欲しい!?

僕は、75,000の観衆と共に、
ただひたすら、そのときを、
そのときを待ち望み、
祈るように、あの歌の旋律を待っていました。

間を十分に取りながらの、叩きつけるドラム。
眼を閉じ、大地に踏ん張り、
ゲンコツで、胸を叩く剛。

殴る、また殴る。
心臓を、心を、殴りつける剛。

熱くなるよ!

その姿を見つめながら、
収まりの効かない激情が、
僕の内臓を掻き回していました。

ドラムに続いて、ギターが重なり、
ドンドン輪郭をあらわにしていく、最後の曲。
かつて聴いたことのない、
長い、長い、ドラマチックなイントロに、
剛の絶叫が引導を渡す!


シャアアアアアアーーーっ!


そして、聞こえてきたコーラス!!!


ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!
ヨー! ソロー!



桜島オールナイトライブ、最終ラウンド!
『Captain of the Ship』!


現実となった。
夢も、妄想も、いま、ここで。
もう、あとはない、最後の曲。
白黒つける、勝負の曲。


うわぁあああああああーーっ!


声にならない、歓喜の叫びに、僕は声を震わせました。



続く



<次回予告>
それは、30分に及ぶ航海の旅。自分との闘い、自分のライブ。
白黒つけろ、自分自身との闘いに。
変えろ、純情を! 激烈な情熱に!

★次の日記 ←クリック

 < 過去  INDEX  未来 >


桜島 [MAIL]

My追加