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No-Mark Stall *




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ふたりの聖女。 [ ver.2 ] | 2005年07月23日(土)
「中央の方か?」
愛らしい美少女には似合わない硬質な声に、セスは戸惑ってエナヴィアに目をやった。
彼女はにっこりと笑って背中に負った巨大な包みを指差した。
「神剣をお預かりしています、エナヴィアと申します。こちらの下僕はセスという名前ですがどうぞ下僕と呼んでやって下さいませ」
一瞬目を見開いた彼女は、次の瞬間にこりと相好を崩してしなやかな腕で招き入れるような仕草をした。
「大地の御方であったか。これは失礼した、どうぞ中へ。我はゴゥエルが剣を預かるリンイェンと申す」
顔立ちは可愛らしいものの赤く染めたまなじりのせいか凛とした気配の強い彼女だが、嬉しそうに目を細めるその表情は外見相応の少女のものだった。
ほのぼのとした気分になってセスも頬が緩む。
すかさずエナヴィアが爆弾を投下する。

「そういえば南炎の御方は先日、二十五になられたのでしたっけ。おめでとうございます。ゴゥエルの輝かしき守護が常に御身にありますよう」
セスの顔が強張る。
そんな下僕の様子には気付かず、うむ、と幼女は尊大な調子で頷いた。
「そうだな、もうそのくらいになるか。そちらはこの秋で二十一であったかな。大地の豊かな実りが常に御身を潤すことを」
「ありがとうございます」
ぱくぱくと無意味に口を開閉する青年を置いて、ふたりは和やかに互いの誕生を祝いあう。
「ちょ、ちょ、え……っと、南炎の御方はどうみてもまだ……」
困惑げな表情の彼に、エナヴィアは呆れたような視線を向けた。
「アンタ知らないの?」
リンイェンが笑いながら彼女の言葉を補足する。
「我らゴゥエルの大剣の守護を任されたものはその年齢で時が止まるのだ。戦を好まれるかの方の御剣の守りに年老いて体力の衰えた者はふさわしくない故」
「でもそれにしても若くないですか?」
エナヴィアの目に多少の軽蔑の色が混じる。
「アンタ遠慮ないわねぇ」
「あまり咎め立てなさらずとも結構だ、大地の御方。――我はそう、予定より何年も早く前任者が逝去された故、このような肉体の年齢のまま時を過ごしている。幼い少女の姿で頼りなくて申し訳ないが、我にもどうしようもないこと故にどうか許して頂きたい」
「許すも何も、僕にそんな資格はありませんよ」
わたわたと手を振るセスの首に腕をかけると、エナヴィアはリンイェンに微笑みかける。
「本ッ当にすいません、下僕の躾も飼い主の仕事のうちですのに。このような無礼なことを申し上げるような真似を許してしまって面目次第もございませんわ」
「何、気にすることはない。御身の下僕殿は無礼なうちには入らぬよ。露骨に嫌悪や侮蔑を表す神父など幾らでも転がっている。単純に驚かれても我はどうとも思わぬ――というかむしろ愉快であるかな」
くすくすと笑いあうふたりの横で、ぎりぎりと締め上げられて半分意識を飛ばしている若い神父は掠れた声で呟いた。
「……お願いですから下僕と呼ぶのは勘弁してくれませんか」

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ななつの剣他の聖女さま編。
短編連作形式ですがどうそれぞれを絡めていこうか思案中。
written by MitukiHome
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