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家系図。 | 2005年07月17日(日) |
自分の名前を指の腹でなぞる。 その上部から伸びている線を追うと、幾つかの線と途中で結合したそれは更にその先でふたつに分かれて彼女の両親の名前の横で途切れていた。更に其処から祖父母の名を辿り、曽祖父母の名へ。 血と時をずっと遡っていけば、いずれ行き着くのは貴き王の血筋。 二百年前まで先祖を辿るのは、彼女のような上流貴族の人間にとっては容易いことだ。 王家に至っては、国家開闢以来四百五十年の来歴が記された家系図が国立図書館に残されている。 借り受けたそれを広げ、二百年前の己の先祖の名を探し出す。 母親を違えた兄弟を幾人も抱えた彼は、結局その頭に王冠を戴くことはなかった。 同じ父親から発生した別の線を辿る。 ――彼の、異母兄弟たち。 慈しみ溢れる愛しき国王と、若くして亡くなった彼の後を継ぎ、歴代の王の内でも一、二を争う素晴らしい采配で最盛期を維持した賢き弟。 弟ふたりの血筋は今も侯爵家、そして王家の嫡流として栄えているが、長兄の子孫はとうの昔に絶えている。 娘ひとりを残して崩御した王の名を人差し指がゆっくりと撫でる。 「……もし、この血筋が絶えていなかったとしたら」 今、王の頭上に輝いている冠はその子孫に渡されるべきものだろうか? * 「二百五十年前に絶えたはずの王の血脈が、今も続いていたと?」 「――と、乱の首謀者は言ってるらしいよ」 白なのか銀なのか見分け難い色の髪をした友人は、ほらこれ、と新聞のとある記事を指して微笑んだ。 「慈愛王の末裔」 「ばかばかしいにも程があるってものですわよ。やっと落ち着いた生活を取り戻せたと思ったのに。そんな信憑性の乏しいお話で世間を騒がせられちゃたまりませんわ全く」 「長く美しい銀髪、榛色の瞳に整った顔立ち、それでもって理知的な言動、というわけで世間の皆さまはこの傾いた大国に救世主が現れたと大喜びのようですけど」 ふん、と彼女は鼻を鳴らした。ぷいと顔をそらした拍子に肩口で揃えられた黒髪がさらりと揺れる。 「外見が似ているだけで先祖は誰だった、などと言えるものでしたら世の中の白っぽい髪に黄色っぽい目の人間は皆慈愛王陛下の末裔になれましてよ!」 「まあそうだねえ。――生まれ変わりとか言い出したらどうしよう」 「この上そんな有り得ないことを自称かの陛下の末裔とやらがほざかれるようでしたら、このわたくしが直々に縊り殺してやりますわ」 ほほほほほ、と低い声で不気味に笑う友人を銀髪の彼女は呆れたように見やった。 「落ち着こうよ、ちょっとは。まあ慈愛王の弟君の血を引いてる君が怒るのは分かるけど」 「これは国家に――王家に対する反逆罪ですわよ。あなたも少しは憤ったらいかがですの?」 「別に私関係ないし。まあ一応国民だけど、大規模な反乱にでもならない限りどうでもいいよ」 「醒めてますわね……」 「クリスが過剰反応なだけだと思うけど」 むう、と黒髪の娘が顔を歪める。 「わたくしの初恋の相手だったのですもの、しょうがないでしょう?」 「……歴史上の人物が初恋の相手……」 「初恋もしたことないような人間に言われたくありませんわ。ちなみにふたつめの恋の相手はあなたでしてよ、シア」 「……次は同性……」 「女の子だと知ってどんなにわたくしが悔しかったことか! あなた今からでよろしいから男にならない?」 親友からの告白を受けても動じなかった彼女だが、この言葉にはさすがに眉をひそめた。 「恋人いるくせに無茶言わないでよ」 「シアが男になるんだったらわたくしあの男捨てても構いませんわよ」 「……うわぁ、愛されてると喜ぶべきかあのひとに同情するか迷うなあ、それ」 ふふん、とクリスが何故だか勝ち誇ったような笑みを浮かべる。 「それはもう、このわたくしに思われているのですから喜んでもらわなくては」 ****** 後半部分暴走。ていうかここらへんの話は以前も屋台に放り込んだような(ぇ)(書き易いので何パターンも出来上がります……)(マテ)。 しかしこの話まで辿りつくのはいつのことだろうか(遠い目)。 あ、レズじゃありませんよちょっと際どい感じですが! (ていうか私の話は女の子同士でいちゃついてるのが多い気がする……orz) |