暗がりの道をずっと あるきつづけている よつんばいで 膝をすりむきつづけている 傷口が膿んで 生まれた膜がちぎれても けものには戻れない むき出しの肌に 当たる風は冷たい 洞窟の奥にも たぶんきみはいない それでもずっと あるきつづけていく
死なないでとは言えない 生きていてとは言えない きみの葬式には 喪服は着ない 顰蹙を買うような おしゃれをしていく 決してなかない 最初で最後の くちづけを送るよ 葬列の一番後ろから ただ言いつづけるのは 好きだよ 好きだよ 好きだよ ごめんね ずっと好きだったよ 好きだよ
目のさめるような 残酷な悪夢を見て あくる日にはまた 笑っている 日々は続いて きみはいなくても なにもかわらずに わたしは嘘をつきつづけて 適当な相づちは いつも闇に紛れて なじめない人並みの中で わたしを食いつぶしていく それでもきっと わたしは笑って いつかはきみを 忘れてしまうだろうか いつかはわたしを 忘れてしまうだろうか
好きだよ 好きだよ 好きだよ 誰よりも近くで きみのとても悪いところを きみのどうしようもないところを さらしつづけて それでも 好きだよとは 言えないままで 触れないままで 誰よりも近いところから きみを透き通す 鏡のように
死なないでとは言えない 生きていてとは言えない わたしがわたしを裏切っても きみの憎しみに 寄り添いつづけて すりむいた膝で ことばにしないままで ごめんね 生かしてあげられない
鏡だから わたしには止められない きみの死ぬ日には わたしも死ぬのだから それからさきはずっと 穴 あるきつづけていく きみを抱いたままで そのときにはきっと 指先にきみの体温を ほんとうに感じられるはずだと 信じている 邪悪な
好きだよ 好きだよ 好きだよ 生きていてとはいえない 鏡だから 鏡だから 鏡のままでずっと
死ねないで あるきつづける わたしの膝から ぶら下がった皮膚が もういないきみを 求め続けても
生きていてと 叫ぶ時はいつも闇 きみのいない闇 ごめんね
きみの生きる間は わたしも生きるから 鏡のように
生きていてと きみに懇願するひとたちが きみを救うだろうか いつか 割れてしまった鏡の破片で わたしは首筋から血を流して きみを失うのだろうか ほんとうに
好きだよ 好きだよ 好きだよ
ごめんね
さよならすら きっと言えない
ごめんね
|